文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

わらにもすがる思いです。自費診療で免疫療法を受けさせてください

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

選択肢を増やしても、規制しても…

 あまり救いのない話になってしまいましたが、がん難民に対して医療は何をすべきなのか、そして、がん難民になりがちな患者さんは、どのようにがんと向き合っていくべきなのかを、みんなで考える必要があるのだと思っています。

 「がん難民は治療を求めているのだから、治療の選択肢を増やせばよい」という主張もありますが、それだけでは、がん難民問題の根本的な解決にはなりません。おぼれている人に渡す「わら」の種類を増やしても、救い出すことにはつながらないのです。なかには、少しは助けになるものがあるかもしれませんが、すべての望みをかけてすがりつくのは得策ではありません。

 わらを高いお金で売りつけるようなクリニックを規制すべき、という話もあり、私も、その必要性は感じていますが、おそらく、それも、がん難民問題の解決にはつながりません。わらの種類を増やすとか、高いわらを規制するという話ではなく、それにすがりつかなければいけない患者さんの思いに、もっと目を向けるべきなのだと私は思います。

けっしておぼれているわけではない

 わらにもすがりつきたい患者さんは、本当におぼれているのでしょうか。がんという病気につきまとうイメージで、あるいは、わらを高く売りつけたい業者の思惑で、「自分はおぼれている」と思い込まされているだけではないでしょうか。つまり、「治らないがんを抱えているということは、わらにもすがるような切羽詰まった状況なのだ」という思い込みはないでしょうか。

 がんを患うというのは、確かに大変なことではありますが、実際のつらさ以上に、がんにつきまとうイメージに (さいな) まれることも多いようです。がんの患者さんは、荒れた海の中にあったとしても、けっしておぼれているわけではありません。わらにすがりつく必要はないのです。あわてることなく、波に身をゆだね、大海原全体を見渡してみてはいかがでしょうか。今何をしたいのか、これからの人生をどのように過ごしていきたいのかを考えてみてください。つらいときは周りの人や医療者に頼りながら、波の穏やかな場所を探し、自分のペースで目標に向かって行くのがよいと思います。どうしても何かにすがりつきたいと思ったときは、その気持ちを医療者に伝えてみてください。医療者は、大海原をともに泳ぎながら、解決策を考えてくれるはずです。

 手元のカードがなくなっても、ゲームオーバーではありません。そもそも、人生は、残っているカードの枚数で勝負が決まるトランプゲームとは違います。仮に治療をあきらめたとしても、それで人生が終わるわけでも、絶望が訪れるわけでもありません。治療を受けていても、受けていなくても、今まで通りの日々があり、それを支える緩和ケアが、いつでも手の届くところにあります。

 「○○療法」で頭がいっぱいの方がおられたら、ちょっと一息ついて、周りを見渡してみてください。もっと大切なものがたくさんあるはずです。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

takano-toshimi03_prof

高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」の一覧を見る

最新記事