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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

わらにもすがる思いです。自費診療で免疫療法を受けさせてください

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わらにもすがる思い。自費診療で○○療法を受けさせてください

イラスト:さかいゆは

 以前も書きましたが、残された抗がん剤の選択肢を、手元のトランプのカードのように数え、「最後の1枚を使い終えたらゲームオーバー」、という感覚を持っている患者さんがおられます。その1枚のカードが希望のすべてであって、たとえ、それが助けにならなくても、すがりつくしかない、という感覚です。

 「おぼれる者はわらをもつかむ」ということわざがありますが、実際に「わらにもすがる思い」とおっしゃる患者さんは、多くおられます。

高額のお金をつぎ込む患者も

 「免疫療法」には、有効性が証明され、保険診療で行われるものもあります。一部のがんに対する「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた治療です。しかし、クリニックなどで行われている自費診療の「免疫療法」は、有効性が示されておらず、国の承認も得ていません。がんに効果があるかのように宣伝され、自費診療で行われている「○○療法」は、そのほかにもいろいろとありますが、これらは、科学的に有効だという証明はされていません。おぼれている患者さんを救うことにはなりませんので、まさに「わら」なのですが、そんな「○○療法」に高額のお金をつぎ込む患者さんもおられます。

 効果があると信じている方も、効果がないことはわかっていながらすがりつかずにいられないという方もおられます。たとえ効かなかったとしても何かをしていたい患者さん、どんなに費用がかかっても患者さんのために尽くしたいご家族、そして、そんな患者さんやご家族の気持ちにつけこんでビジネスを展開するクリニック。この構図の中、○○療法を行うクリニックの売り上げは増える一方で、切羽詰まった患者さんは、多くの場合、希望を満たされることのないまま、振り回され、さまよっているようです。

「いつでも帰ってきてくださいね」

 「もうこれ以上、治療法はありません」と言われ、それでも希望を見いだしたくて、医療機関を渡り歩く患者さんは、「がん難民」と呼ばれることがあります。近年、自費診療でいろいろな治療を提供するクリニックが増え、がん難民の受け皿が広がったようにも見えますが、どんなに選択肢が増えても、患者さんの切羽詰まった気持ちが満たされなければ、がん難民は救われません。「選択肢が増えたせいで、かえってがん難民が増えているのではないか」と感じることもあります。

 私も患者さんから、「○○クリニックの○○療法を受けたい」と懇願されることがあります。「○○療法が有効であるという根拠はなく、費用も高く、お勧めできない」と説明するわけですが、それでも受けたいという場合には、紹介状を書いて、送り出すこともあります。そんなとき、「自己責任で行くのだから、あとはどうなっても知りませんよ」と見放すような医者もいるようですが、私は、「うまく行かなかったら、いつでも帰ってきてくださいね」と声をかけるようにしています。こうしたクリニックでは、緊急時の対応や緩和ケアはしてくれないことも多く、患者さんを継続してきちんと診ていく医療機関は必要なのです。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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