難病の子の存在「目の前から消さないで」…写真家・和田芽衣さんに聞く
インタビューズ
発作が怖くてトイレにも抱いていった日々 難病の子の存在「目の前から消さないで」…写真家・和田芽衣さんに聞く
生後9か月、楽しみにしていた「初めてのイス」に座らせたわが子は、眠くもないのに、こっくりこっくりと舟をこぎ始めた――。異変を察知して、診断を受けた病気は難病に指定されている結節性硬化症。乳児期の子育てで孤独だったときも、地域の全ての幼稚園から断られたときも、母親の和田芽衣さん(37)は、わが子の姿を写真に刻み続け、2018年には写真集を出版しました。2月最終日の世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day=RDD)にちなんだイベントでは、日本開催事務局スタッフも務めています。病気や障害のある子どもと家族が、地域の人たちとともに生きていくためには、何が必要なのか。和田さんに聞きました。(聞き手・梅崎正直)
生後9か月、突然の異変
――長女のゆきちゃんの発育に、異変が感じられたのはいつでしたか。
2011年11月、生後9か月の頃です。出産後、私はがんを患う母の介護もしていました。そのときは、どちらかというと母を優先せざるを得なかったのですが、他界して、これからは育児に専念して……と考えていました。
初めての子だったので、「この子が初めて座るイスを」と、購入したものに座らせたところ、こっくりこっくりとし始めました。てんかん発作です。私は大学病院に心理士として勤めていたので、すぐに「この症状は……」と思い当たりました。医師である夫に、その動画をスマホから送ったところ、難病の「結節性硬化症*」ではないかと。
実はそれ以前から、夫には、気になることがあったそうです。生まれた時に、白いあざ(白斑)があったのです。ただ、それだけでは難病ではない場合もあるので、私には言っていませんでした。
*結節性硬化症 遺伝子の異常で起きる全身の疾患で、皮膚、神経系、腎、肺、骨などに良性の腫瘍や先天性の病変が表れる。白斑や赤い血管線維腫といった皮膚疾患のほか、てんかんや知的障害をともなうことが多い。
――難病だと分かった時は、どういったことを考えましたか。
心エコー(心臓超音波検査)やМRI(磁気共鳴画像)などの検査をして、診断が出るまでの1週間は、ネットサーフィンをしまくりました。調べても、深刻な良くない情報ばかりで、「そうではない情報はないのか」と必死に探して……。その1週間は、本当に地獄でしたね。
その後は、てんかんで倒れて頭をぶつけないように、常に見守って、自分のトイレにも抱いて行きました。薬が効きづらく、舟をこぐのが10回続くのを1シリーズとして、それが1日に何シリーズあるかを記録する。とにかく目を離してはいけないと、ノイローゼのようでした。
それに、私は病院に勤務しながら、大学院の博士課程で学んでいました。育休が明けて、娘を育てていくために仕事を辞めても博士課程には在籍を続けていたのですが、やはりサポートなしに通院治療と論文執筆を並行することが、私にはできず、満期退学となりました。しばらくは、学会で発表したり、後輩を指導したりと、仲間が活躍するのを見るのがつらく、SNSなどは見ないようにしていました。
今、目の前にあるものが、明日には失われるかもしれない
――そんなとき、話を聞いてもらえる人はいましたか。
母を亡くしたばかりで、「なんでこんな大変な時に、そばにいてくれないのか」なんて考えたこともありました。就職で横浜から埼玉の飯能に転居し、仕事ばかりしていたので、友だちもいませんでした。
幼稚園に入りたくても、「基礎疾患のある子どもはだめ」と、全て断られました。年少さんの年から市立の療育園に通い始め、年長になって、保育士の加配という制度を使い、介助の保育士付きで保育所に入ることができました。共働きでないと入れないので、思い切って「開業」することにしたんです。それが写真家としての自営業でした。
――なるほど。写真集「わたしと娘(ゆき)」の序文で、「『今、目の前にあるものが明日には全て失われるかもしれない』と思うと、カメラを手放すことができなかった」と書かれています。ゆきちゃんが生まれた時から、撮り続けていたんですね。
実は、写真歴は医療職よりも長くて、中1の部活からなんです。開業するにあたって、腕試しにコンテストに挑戦し、手応えも得て自信をつけました。これなら、写真業としてやれるかなと。写真集を出したのは、そのときの現実をしっかり記録したかったから。人は、時間がたつと過去を美化しがちなので、今の苦しさや葛藤を忘れないうちに残したいと考えたからです。過去の認識が変化していくことは大切なことなのですけれど、ただ私は、あの時のつらさも忘れたくなかったのです。
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