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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

医療・健康・介護のコラム

日本脳炎ワクチンが足りず予防接種に影響……どうすればいい?

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 先日、3歳の子を持つお母さんから相談を受けました。

 「こどもが3歳になったので、日本脳炎の予防接種を受けようとクリニックに行ったら、ワクチンが入荷しないから延期してほしいと言われてしまいました。日本脳炎の予防接種が遅くなっても大丈夫なのでしょうか。不安です」

 どうやら周りの保護者の方も同様の状況で、不安な方も多いようです。

日本脳炎ワクチンが足りず予防接種に影響……どうすればいい?

イラスト:江村康子

ワクチンの製造会社が一時的に生産停止、21年度前半は供給不足

 実は、日本脳炎ワクチンを製造している2社のうち、1社のワクチンの製造が一時的に停止しました(現在は製造再開されています)。その一時停止の影響で、2021年度の前半にワクチン供給量が大幅に減少すると予想され、出荷量の調整が行われています。その影響でクリニックへのワクチン供給が不安定になっているのです。

 接種するつもりのお子さんの予防接種が突然延期になると不安になるのは当然かと思います。そこで日本脳炎という感染症とワクチンについて紹介した上で、供給が不安定な現状をどう考えればよいのかお伝えしたいと思います。

日本での発生は毎年西日本を中心に10人前後

 日本脳炎という病気、耳にしたことのある方は多いと思いますが、実際にどんな病気なのかあまり知らない方も多いかもしれません。

 この病気は、極東から東南アジア、南アジアにかけて広く分布する病気で、世界的には年間3万~4万人の患者報告があります。日本という名前がついていますが、アジア全体でみられる病気なのです。

 一方、日本では、1960年代までは年間1000人以上の発症報告がありましたが、その後予防接種の効果、感染を媒介する蚊が生息する水田の減少や生活環境の改善などもあって激減し、最近は毎年10人前後が西日本を中心に発生しています。

 以前より減っているとはいえ、国立感染症研究所によると、毎年日本脳炎ウイルスを持った蚊の発生が報告されているため、国内での感染の可能性は常に残っているとしています(1)。2015年には生後10か月の患者が千葉県でも報告されています(2)。日本でも引き続き注意が必要な感染症といえるでしょう。

おもにブタを吸血したコガタアカイエカに刺されて感染

 この病気は、コガタアカイエカという蚊に刺されることで人に感染します。まず、ブタなどの体内で増えた日本脳炎ウイルス(ブタはこのウイルスに感染しても無症状です)を、コガタアカイエカがブタを吸血した際に蚊の体内に取り込みます。その蚊が人を刺した時に感染するというわけです。人に感染した場合も必ず症状が出るわけではなく、ほとんどは無症状です。症状が出る(発症といいます)割合は、感染した100人~1000人に1人とされています(3)。ちなみに人から人への感染はなく、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザのように感染が爆発的に広がるということはありません。

発症すると高熱やけいれん、意識障害が起こり、小児は重症化リスクも

 発症すると高熱、頭痛、 嘔吐(おうと) 、けいれんや意識障害を伴う急性脳炎を起こします。致命率は20~40%と非常に高く、特に乳幼児や高齢者の死亡リスクが高いとされています(1)。 小児では特に気をつけなくてはいけない感染症なのは確かです。残念ながら特効薬もありません。

 かからないための予防対策としては、やはり日本脳炎ワクチンの接種が最も有効です。また蚊に刺されることで感染するため、外出する際に蚊に刺されない対策も大切になります。

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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