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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

「玩具をのどに詰まらせた子は半年で1150万円」 なぜ事故の医療費を示す必要があるのか…行政と企業の責務

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 これまで、いろいろな窒息についてお話ししてきました。空気が遮断される状況が5分以上続くと死亡する場合もあり、窒息は重症度が高い事故です。 製品による窒息についての回 では、「木製のままごとセットのイチゴをのどに詰まらせた子どもの半年間の医療費は約1150万円」など、かかった医療費を示しました。この記事を読んだ人から、「医療費まで示す必要はないのではないか」「高額であると知ることが、事故防止につながるかは疑問です」「お金の問題ではありません」「これは保護者が支払ったのですか?」などのコメントがありました。それらにお答えしたいと思います。

「玩具をのどに詰まらせた子は半年で1150万円」 なぜ事故の医療費を示す必要があるのか…行政と企業の責務

イラスト:高橋まや

発生直後の死亡は比較的低額だが

 事故を予防するためには、社会全体で取り組む必要があります。社会で取り組む理由づけとして、人的被害、経済的被害など、いろいろな指標を提示して社会に訴えることが不可欠です。その経済的指標の一つとして、医療費を取り上げました。

 事故の発生直後に死亡した場合の医療費は比較的低額ですが、治療期間が長くなると、医療費も増大します。お風呂で溺れ、人工呼吸器をつけている子どもの医療費は、1か月に100万円、1年で1200万円、10年で1億2000万円となります。電気ケトルによるやけどの治療で、1年間に500万円の医療費がかかった子どもがいます。同じようなやけどの子どもは、全国に100人はいるので、5億円かかっています。毎回、死亡例や重症例を中心に紹介していますが、その数十倍から数千倍の同じ事故が起こり続けているのです。

悲嘆によって行政や企業を動かすのはむずかしい

 物事に取り組む場合には、何らかの指標が必要となります。いろいろな指標がありますが、健康問題の指標としては、死亡数、傷害の発生数、発生率、治癒率、5年生存率、入院数、在院日数、医療費など、たくさんの指標があります。これらの指標の中から、優先的に取り上げる指標を選び出し、データを収集し、分析を行って対策を検討するのです。

 指標の設定の仕方で、見え方が変わります。例えば、損失生存可能年数(Years of Potential Life Lost:YPLL)という指標があります。生存目標年齢を定め、その目標年齢までに達しないで死亡した場合、目標年齢と死亡時年齢の差の年数を計算したもので、低値ほど望ましいとされています。例えば、寿命を80歳と仮定し、がんにより78歳で死亡した人は2年の損失、交通事故で1歳で死亡した人は79年の損失ということになります。これらをそれぞれの疾病で足し合わせると、事故による死亡の損失年数の数値は大きくなり、 悪性新生物、自殺に次ぐ第3位は「不慮の事故」となります 。事故死は、がん、心臓疾患、脳血管障害などによる死亡と肩を並べ、対策の必要性がより明らかになります。

 もちろん、子どもを亡くした遺族の精神的苦痛は計り知れず、専門的な対応が必要です。しかし、悲嘆によって行政や企業を動かすことは、たいへんむずかしいのが現実です。

その医療費は社会が支払っている

 わが国には国民皆保険制度があります。医療機関で治療を受けると、かかった医療費の1~3割を一部負担金として窓口で支払います。残りは、加入している医療保険が負担しています。医療保険には、医療費の個人負担が大きくなりすぎないよう、負担の上限が設定されています。高額療養費制度といい、健康保険組合や共済組合、国民健康保険などの公的医療保険に設けられています。

 子どもの医療費に関しては、各自治体で助成が行われています。子どもの年齢や保護者の年収によって異なりますが、乳幼児では、多くの場合、無料に近い額となっています。そのため、保護者にとって医療費が大きな問題にはならないケースも多いと思います。しかし、その医療費は社会が支払っているのです。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。産業技術総合研究所人工知能研究センター外来研究員、キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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