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中川恵一「がんの話をしよう」

医療・健康・介護のコラム

「福島の話をしよう」 原発事故による一般住民の被ばく量は少なく 情報不足が招いた専門家への不信と住民の健康リスク

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東日本大震災から10年 福島への支援活動を通じて

放射線測定検査を受ける被災者。2011年3月、福島市で(読売新聞)

放射線測定検査を受ける被災者。2011年3月、福島市で(読売新聞)

  東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年間、福島の支援に関わってきました。きっかけは飯舘村でした。

 飯舘村は阿武隈高原の豊かな自然に恵まれた美しい村で、パイ中間子による放射線治療の研究で私が留学していたスイスのフィリゲン村を思い出させます。

 村は原発から30キロ以上も離れているため、大熊町や双葉町といった原発立地が享受してきた経済的恩恵を全く受けてこなかった反面、風向きの関係で大量の放射性プルームによって汚染されてしまいました。

 原発からの距離とともに、風向きや降雨の有無が被ばく量を決めますが、こうした情報がタイムリーに提供されなかったため、住民の避難は遅れてしまいました。

 さらに、チェルノブイリでの経験を持つ医師が安全だと講演をした数日後に、年間の積算放射線量が20ミリシーベルトを超える恐れがあるとして、1か月以内の全村避難が政府から指示されました。こうしたボタンの掛け違いが、政府や専門家への不信を招いてしまったと思います。

102歳の女性 被ばくより避難のための移動が健康リスクに

  2011年の4月に「チーム中川」が事故後はじめて福島を訪問した際、思いがけず、菅野典雄村長(当時)にお会いしました。子供や妊婦はまだしも、役場に隣接する特別養護老人ホーム「いいたてホーム」についても入所者全員の避難を指示されていることに村長は反対を表明していました。

 我々がホームを訪問してみると、入居者は平均年齢が約80歳、中には102歳のおばあちゃんもいました。100人あまりの入居者のうち、車いすの人が60人、寝たきりの人が30人です。「この人たちを避難させるのか?」とびっくりしました。

 たとえば、102歳のおばあちゃんには、毎日何万個とがん細胞ができていて、既にがんが大きくなっている途上かもしれません。被ばくによって毎日生まれるがん細胞の数が確かに増えるかもしれませんが、免疫が見過ごしたがん細胞が1センチになるのに20年もかかりますから、102歳のおばあちゃんに避難のメリットは全くありません。

 私が政府にアドバイスした結果、入居者はそのまま施設にとどまり、職員は村外から通勤して介護にあたることになりました。一方、避難した病院や老人介護施設では入居者の死亡率が大きくアップしました。高齢者の避難についてはできるだけ慎重に考えるべきなのです。

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中川 恵一(なかがわ・けいいち)

 東京大学医学部附属病院放射線科准教授、放射線治療部門長。
 1985年、東京大学医学部医学科卒業後、同学部放射線医学教室入局。スイスPaul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院(当時)放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師を経て、現職。2003~14年、同医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者・一般向けの啓発活動も行い、福島第一原発の事故後は、飯舘村など福島支援も行っている。

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