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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

胃ろうからも「お母さんの手料理」を食べる(下)

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 前回は、脳性まひのために、食べる機能の障害がある20歳の琴ちゃんが、胃ろうを造設した後に口から食べる訓練を行いながら、胃ろうからもお母さんの手料理を食べていく様子をご紹介しました。琴ちゃんのお母さんは、「食べているときのうれしそうな顔、反応の良さを見ていると、口から食べることは本当に大切だと実感しています。我が家には我が家の味がありますから、一緒に味わうことができるのも嬉しいですね」と語ります。家族で同じ食卓を囲み、「おいしいね」と食事を楽しむこと。当たり前のようですが、それがかなわないご家庭もあることに改めて気づかされました。

「口から食べる楽しみ」を「生活の楽しみ」に

胃ろうからも「お母さんの手料理」を食べる(下)

 飲み込みの検査を行い、ペーストやムース、ゼリー状の食べ物であれば上手に飲み込めることがわかった琴ちゃん。障害のあるお子さんに限らず、病院や施設では、これらの形態でないと食べられない方の場合、おやつにはプリンや果物のゼリー、ヨーグルトなどが提供されることがほとんどです。しかし、「プリン、ゼリー、ヨーグルト」の無限ループに飽きてしまい、おやつの時間が苦痛になってしまう方もいらっしゃいます。

 在宅訪問管理栄養士は、「生活の中で」その方の食と栄養をサポートする仕事です。単なる栄養補給だけでなく、ご本人が食を楽しむという側面を忘れてはならないと思っています。私は、かつて琴ちゃんがどんなおやつが好きだったのかお母さんに聞いてみたら、「おはぎが大好きだった」とのことでした。前回もお話しした通り、彼女は成長するにつれて、食べ物をのみ込むことが困難になってきたのです。そこで、「おはぎを、琴ちゃんが安全に食べられるように加工してみましょう」と提案しました。

 お母さんは「ええ!? そんなことができるのですか?」と目を丸くしました。

おはぎもクリスマスケーキも笑顔でペロリ

胃ろうからも「お母さんの手料理」を食べる(下)

(写真1)

 さて、おはぎはもち米と甘いあんこでできていますね。もち米は口の中や歯にくっつきやすく、のみ込みの障害のある方には 誤嚥(ごえん) や窒息のリスクの高い食べ物です。そこで、まずもち米のごはんの替わりにおかゆを使用します。おかゆには「酵素入りゲル化剤」という特殊な粉を混ぜてミキサーにかけ、酵素(アミラーゼ)の作用でお米の粘りを取りながらゼリー状に固めることにしました。さらに、市販のこしあんを使い、お湯で少しゆるめてから、こちらもゼリー状に加工しました。お皿に盛り付けると、見た目にはおはぎに見えます (写真1) 。これで、琴ちゃんには、大好物を口から食べてもらうことができました。

胃ろうからも「お母さんの手料理」を食べる(下)

(写真2)

 おはぎを楽しんだあとに残った分は、胃ろうから注入します。硬さを確認すると、酵素入りゲル化剤の作用で、チューブに詰まることなく滑らかに押し出されていきます (写真2)

 12月になると、お母さんから「今度はクリスマスケーキを食べさせてあげたい」とのリクエストが。ケーキに使用するスポンジはパサパサしているため、こちらも飲み込む機能が低下した方には難しいスイーツです。そこで、カステラを薄く切って器に敷き詰め、「酵素入りゲル化剤」を加えた牛乳を沸騰させてからカステラの入った容器に流し入れ、カステラを牛乳に浸し、冷蔵庫で冷やし固めました。こうすることで、スポンジがしっとりとしてのみ込みやすくなります。その上に市販のホイップクリームとイチゴソースをかければ、ショートケーキの出来上がりです。

 琴ちゃんは、かわいらしくデコレーションされたクリスマスケーキを、むせることなく1個ペロリと平らげました。

通所施設や支援学校でも「食べる楽しみ」をかなえてほしい

 今年の3月で琴ちゃんへの訪問を始めてちょうど1年になりますが、琴ちゃんはお母さん手作りの料理やおやつを毎日楽しんでいます。しかし、それは家だけでのことです。通所施設では、胃ろうから栄養剤を注入しています。窒息事故などのリスクがある重度のお子さんに「食べるケア」を行うためには、専門的な知識と技術のあるスタッフが不可欠ですが、通所施設にはそのような人員配置が義務付けられていません。

 以前、重症児さんに通所施設で 「食べるリハビリ」を行っている「デイケアルームフローラ」 をご紹介しましたが、このような取り組みをしている施設は、全国にまだ数えるほどしかありません。

 少しでも口から食べられる可能性があり、それがご本人の喜びにつながるのであれば、家庭だけでなく施設や学校でも「食べるケア」を行うのが理想的ですが、そのための環境を制度で整える必要があると思います。「食べるケア」に熱心な一部の専門職だけが頑張るのではなく、社会全体で考えていかなければならない問題だと思います。(在宅訪問管理栄養士 塩野崎淳子)

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塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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