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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳

医療・健康・介護のコラム

「俺はどうして死ななきゃいけないんだ」という魂の叫び…寄り添う在宅医療は人間としての仕事

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 首都圏で在宅専門の診療所15か所を運営する悠翔会は、総患者数5000人以上、年間900人以上を在宅で 看取(みと) っている。新型コロナ禍で自宅での看取りなど在宅医療を希望する人が増えてきた。どんな医療を行っているのか、理事長で医師の佐々木淳さんに聞いた。(聞き手・渡辺勝敏)

患者の半数は末期がん 夜間呼び出しは若い患者に多い

写真・幡野広志

写真・幡野広志

――在宅医療というと、寝たきりなど通院できない患者の医療を担うわけですが、具体的にはどのような診療をしているのですか。

 月2回の往診を基本に、呼び出しがあれば24時間対応しています。初診は1時間ぐらい、ご本人やご家族のお話を聞いて、以後は1回15分から30分ぐらいの訪問になります。医師は、内科を中心に全般を診ることができる総合診療医なので、糖尿病や血圧の管理、肺炎や関節痛などの治療から神経難病の方の人工呼吸器管理、末期がん患者さんの痛みの治療などいろいろと対応しています。子どもの患者さんもいます。新型コロナ禍では、病院だと家族の面会が制限されてしまうので、がんの末期で緩和ケア病棟に入院されている方が、「最期の1週間でも」と、自宅に戻って看取るケースが増えました。

――24時間対応するというのは大変そうですね。

 日頃の管理をし、緊急の必要があれば、夜中でも日曜日でも行くわけです。ただ、ゆるやかに衰弱するご高齢の方のご家族から、夜中に緊急で呼ばれることはあまりありません。大変なのは、末期がんや神経難病の患者さんです。特に40歳代、50歳代と、若くして末期がんを患った方は、日々変化していく体調と向き合い、「俺はどうして死ななきゃいけないんだ」という魂の叫びと共に生きているので、夜中もよく呼ばれるし、支援には大変なエネルギーが必要です。

 在宅医療が必要な患者さんの8割は、穏やかに年を取っていかれる方ですが、「在宅専門」ということもあって、私たちの患者さんは半分は末期がんの方です。多い時には一人の医師が月に10人を看取ることもあります。自分の親よりも頻繁にお会いして、お話をしているおばあちゃんが亡くなるとか、脳腫瘍の6歳のお子さんを看取るとか、仕事とはいえ、精神的にも厳しいところがあります。

自分の健康、家族の幸せ、そして仕事

――体も心もすり減る仕事のように思えますね。

 「患者さんやご家族の気持ちにできるだけ寄り添う」と言っているのですが、それは医療としての仕事じゃなくて、人間としての仕事だと思っているんです。その面で、精神的にハードなところがあります。でも、僕たちは、「病気や障害があっても幸せに暮らす支援をしよう」と思って集まったわけです。それで、自分たちが、体力と神経をすり減らして不幸になっては、誰かを幸せにすることなんてできないとも思っています。夜はちゃんと眠って、日曜日には家族と過ごす。自分の健康、家族の幸せ、そして仕事です。

 地域医療というと、「赤ひげ」のイメージのように、開業医が一人で日中も患者を診て、深夜でも相談を受ければ駆けつけるという理想の医師像があるかもしれません。患者が少ない離島や山間部はそれでいいかもしれませんが、大都市部は、在宅医療を必要としている患者の絶対数が多くて、医師1人が200人の患者さんを診る状態です。ワーク・ライフ・バランスを確立しながら働くには、個人のがんばりでは続かないので、持続可能な仕組みを作る必要がありました。

――どのような仕組みでしょうか。

 患者さんにとっては、24時間、主治医と電話でつながっている方が安心かもしれませんが、医師それぞれが24時間待機すると、シフト上は休みゼロです。そこで休日と夜間は、地域を大きく北と南に分けて、医師と看護師、ドライバーの2チームで対応しています。約60人の医師がいるので、当直勤務は月1回でいいわけです。このシフトにして10年になります。当初は、地域のケアマネジャーや老人ホームの運営者から、「主治医とつながらないなんて手抜きじゃないか」とご批判も受けましたが、夜間も確実に医師につながり、対応できるので、むしろ安心だという評価をいただけるようになりました。

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sasaki-jun_prof

佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1973年生まれ。筑波大医学専門学群卒。三井記念病院内科、消化器内科で勤務。井口病院(東京・足立区)副院長、金町中央病院(同・葛飾区)透析センター長を経て2006年MRCビルクリニック(在宅療養支援診療所)設立。2008年、団体名を悠翔会に改称。首都圏15か所で在宅療養支援診療所を運営する。

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1件 のコメント

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人間的問題と医科学を両立させる仕組み作り

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

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本文を読んでいて、いわゆる個人経営の開業医と地域の病院のニッチ産業として、病棟を持たない在宅医チームが出現したのだと理解できました。人間個人として患者や地域社会との関わりが問われる部分も、チーム対応によって軽減しうるということです。能力の大小だけでなく、相性の問題は大きいです。患者さん目線の医療という言葉はキャッチ―ですが、そこに至るまでの個人として、あるいは患者さんとしての理解や経緯との折り合いをつけていく作業は、時に重症患者よりも困難な作業でもあります。そして、地域でやっていくには、個人として好かれることも大事ですが、嫌われないことも大事です。そのへんの適性やモチベーションも医療者それぞれですから、今後もいろいろな形態が増えていけばとは思います。

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