ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
犬の定員空きを待ち、先にホーム入居 思いがけず1か月で同居実現、号泣
本人の入居はすぐに決まったが…
点数が高い方がずらりとそろっていたら、申し込みをしてから入居できるまで時間がかかるでしょうが、横須賀のような中規模以下の都市ではそうはなりません。点数が高ければ、申し込んですぐに入居できる場合も多いです。
角井さんは、要介護度5なので45点でした。身寄りがいないので、これも45点です。そして自力でベラちゃんの世話をすることは不可能なので10点。合計100点です。すぐに入居が決まりました。しかし、角井さんは、さくらの里山科に入居するべきか、悩みました。というのは、角井さんの希望はもちろん、ベラちゃんと一緒の入居だったのですが、その時点では犬の空きがなかったのです。
その時、空室があったユニットに暮らしている犬は6匹。犬の定員の目安は1ユニットで5匹としていますので、すでに定員超過の状態でした。しかし、お部屋の空きと、犬の定員の空き、両方がそろうのを待っていたら、いつ入居できるかわかりません。
そこで、「まずは角井さんご自身が先に入居され、犬の定員の空きが生じるのをお待ちになれば」と提案しました。角井さんは、「どうせ今、有料老人ホームでベラちゃんと別れて生活しているのなら、さくらの里山科に入居してベラちゃんを待っていた方がいい」と決断され、19年12月に入居されたのです。
入居2週間後、席を譲るかのようにホームの飼い犬が旅立ち
実は私たちは、果たして角井さんとベラちゃんの生活が実現できるかどうか危惧していました。この時、ベラちゃんは14歳。小型犬の平均寿命を超えつつあります。ユニットの犬の定員に空きが生じるまで、ベラちゃんの寿命が保てるか心配でした。
そんな状況で角井さんが入居されて2週間後、ジローが亡くなりました。老犬とは言え、まだまだ元気だったのに、突然の旅立ちでした。まるでベラちゃんに席を譲るかのように(この経過は前回のコラムをご参照願います)。そのため、角井さんは、わずか1か月待つだけで、ベラちゃんも入居できることになったのです。
角井さんの親戚は、新幹線と在来線で片道5時間以上かかる距離にいたベラちゃんを日帰りで迎えに行ってくださり、角井さんはベラちゃんと再会します。大粒の涙を流して、声をあげて泣いていた角井さん。甲高い声で叫び続けながら、角井さんの元に走り寄り、すがりついたベラちゃん。さくらの里山科では何回も繰り返されてきた涙の再会シーンですが、何度見ても胸が熱くなります。
16歳になる愛犬と今も一緒
今年16歳になるベラちゃんは、まだまだ元気で、角井さんと一緒に暮らしています。夜は、角井さんのベッドで一緒に寝ています。昼間、角井さんがリビングにいる時は、ベラちゃんは車いすの下に寝そべっています。2人は片時も離れることがありません。この幸せな生活が、少しでも長く続くことを祈っています。
ただ、ベラちゃんを可愛がっていた角井さんの弟さんが、すっかり元気をなくしてしまったそうで、その点だけは気になります。弟さんは息子さん一家と一緒に暮らしているそうですから、息子さん一家が新しいワンちゃんを迎えてくださるといいのですが。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)
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偶然目に留まったこの記事の角井さんは、私の実家のご近所さんです。ゆったりした服を着て、長い髪を頭の上でお団子状に束ね、いつも「ベラちゃん」を腕に抱いて通りをお散歩していました。私の幼い頃からの記憶では、ずっとマルチーズを飼っている方で、代々その名前もいつもベラちゃんなんです。なので、近所の子どもたちは皆「ベラちゃんのおばさん」と呼んでいたんです。なんだかすごく懐かしいです。実家の母から以前、横須賀のホームへ行くという話と、その経緯を少し聞いていました。弟さんがベラちゃんを預かってくれるから、ホームに先に入って待っているんだと。1年ほど前にベラちゃんとの同居の念願がかなったんですね。記事からは、施設の皆さんの、人と動物に対する思いやりと愛情を感じます。このような施設が全国に広がるといいですね。
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すてきなお話ですね
にっし
聞かせてくれてありがとうございます。私も愛犬と最期まで…と願う1人です。
聞かせてくれてありがとうございます。私も愛犬と最期まで…と願う1人です。
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