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医療・健康・介護のコラム

『令和時代の医療・介護を考える』武久洋三著

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『令和時代の医療・介護を考える』武久洋三著

 世界で人口当たりの病床数が最も多く、新型コロナ感染者数は欧米と比べ桁違いに少ない日本で、どうして医療が 逼迫(ひっぱく) するのか。その構造的な問題のひとつは、日本には中小規模の急性期病院が多いことにある。著者は、慢性期の病院や福祉施設を各地で展開する医療福祉グループ、そして日本慢性期医療協会のトップとして、日本の医療システムの変革について、厚労省の様々な委員としても提案を行ってきた。本書は、高齢期の医療や医療提供体制の課題を整理し、独自の提案をするものだ。

 病床と一口に言っても、機能によって大学病院のような「高度急性期」、一般の「急性期」、リハビリ中心の「回復期」、症状が落ち着いた「慢性期」に分かれている。「民間病院がコロナ患者に対応できない」などと問題になったが、著者は、本来治療を目的にするはずの急性期病院の多くが、医師や看護師に乏しく、体制が貧弱な「なんちゃって急性期病院」なので対応できなかったとする。

 そして、構造的な問題として、体力のないこうした急性期病院は、経営のために、高齢の患者をリハビリも提供せずに不必要に長期に入院させ、要介護状態を作り出してきた、とも断じられる。若い患者は病気やけがの治療で入院していても、退院すれば身体機能は回復する。しかし、高齢者は、治療のための入院で弱ってしまい、回復が難しくなる人も少なくない。そこで、筆者はリハビリ提供体制の強化や栄養管理の重要性を訴えている。

 また、多くの病気を持つ高齢者の治療には、従来の臓器別専門医ではなく、専門科にとらわれない総合診療医が必要とする。医療、福祉施設の経営者であり、リハビリや老年医学を専門にしてきた医師でもある視点で、超高齢化時代に即した医療提供体制を提案している。

 (中央公論事業出版、本体1400円)

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