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オプジーボなど「がん免疫治療薬」が効く人、効かない人を予測…診断キット開発に期待

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 「オプジーボ」をはじめとしたがん免疫治療薬が効きやすい患者を事前に予測する研究が進んでいます。国立がん研究センター(東京)などの研究チームは、予測に活用できる指標を見つけました。実用化に向けた診断キットの開発が期待されています。(加納昭彦)

「がん免疫治療薬」…適切な投与へ 効果予測

  高精度の指標

 「ここまで生きられるとは思いませんでした」。兵庫県の会社員、 栗生くりゅう 和幸さん(55)は語ります。2016年5月に最も進行したステージ4の肺がんと診断され、標準的な治療が難しいことが分かりました。4年余りにわたるオプジーボの治療がよく効き、職場の理解を得ながら仕事を続けています。週末は趣味のゴルフも楽しんでいます。

 がん免疫治療薬は、異物を排除する「免疫」という機能を活用した薬です。がん細胞を主に攻撃するのは、「T細胞」と呼ばれる免疫細胞です。がん細胞は「T細胞」にブレーキをかけて攻撃を免れます。この治療薬は、ブレーキを解除する働きがあります。

 従来の抗がん剤が効かない患者の一部にも高い効果があります。皮膚がん(悪性黒色腫)や、肺がん、胃がんなどの治療にも使われていますが、効果があるのは患者の2~3割です。重い副作用が表れる人もいます。国立がん研究センターなどのチームは20年、がん免疫治療薬の効果がある人を高精度で予測できる指標を見つけたと発表しました。

 チームは、バイオ企業「日本BD」と共同で、がん細胞に集まる微量の組織のサンプルを保存・調整する技術を開発しています。この技術を活用して、16~19年にオプジーボなどのがん免疫治療薬を投与された肺がんや胃がんなどの患者87人のがん組織を調べました。

 その結果、「T細胞」のうち、異物を攻撃する「キラーT細胞」と、攻撃を抑える「制御性T細胞」のそれぞれのPD―1と呼ばれる分子の割合が鍵を握ることが分かりました。PD―1がキラーT細胞に多く、制御性T細胞に少なければ薬が効くものの、PD―1がキラーT細胞に少なく、制御性T細胞に多いと効きませんでした。

  副作用を回避

 この指標を基に、薬が効く患者をみると1000日過ぎても進行しない人がいましたが、効かない人は100日までに全員の病状が悪化したのです。早い時期に薬の効く人、効かない人を見極められれば、過剰な投与や懸念される副作用を避け、別の治療法に切り替えられます。チームは3月にも、指標の有用性を確かめる臨床研究を始めます。

 同センター研究所腫瘍免疫研究分野長の西川 博嘉ひろよし さんは「がん免疫治療薬だけで効果が期待できる人もおり、これまで併用していた抗がん剤を減らせる可能性もあります。2年以内に検査キットとして実用化させたい」と意欲を見せます。

 がん免疫治療薬は、医療財政を圧迫するとして議論を呼んでいます。公的医療保険で認められたオプジーボの薬価は当初、患者1人あたり年3500万円とされました。国はその後、年1000万円程度に引き下げたものの、一般的な抗がん剤よりも高額です。日本総合研究所主席研究員の西沢和彦さんは「実現すれば医療費の軽減にもつながるでしょう」と話しています。

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