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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

平時の医療のゆとりとコロナ禍…患者が口出ししなければ変わらないこの国の医療

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平時の医療のゆとりとコロナ禍…患者が口出ししなければ変わらないこの国の医療

 コロナ禍で医療は 逼迫(ひっぱく) ――。

 この「逼迫」とは「行き詰まり、余裕がないこと」「事態が差し迫ること」を意味します。「事態」がすでに来ていても、なおこの語を用いる行政の気持ちはわかりますが、それでは安心感が得られません。

 患者数が日本より1桁以上多い欧米諸国では、逼迫しながらも、何とか対応しています。どこに決定的な差があるのかを徹底的に分析して、将来を見据えた政策を打ち出してもらいたいものです。

 さて、大病院での「3時間待ちの3分診療」、救急受け入れ時の「たらい回し」といった事例は平時にもありました。つまり、日本では、どこの医療機関もぎりぎりの状態で医療が行われてきたので、災害、感染症の 蔓延(まんえん) などの緊急時には大わらわになります。特に感染症は終わりが見えないだけに、一層深刻です。

 眼科においても医療のゆとりのなさは同じです。普段、街の眼科医でも、病院の眼科外来でも、患者はあふれ返っていて、とても医師に話をゆっくり聞いてもらえそうにはないことを経験されているでしょう。

 一般眼科では眼球の状態を知るための検査、診察をすることが重要視されますが、私が専門としている神経眼科、心療眼科では、話をよく聞くことが診断・治療への近道です。

 ですが、診療報酬の体系は検査をすれば加点されるのに対し、いくらじっくり話を聞き、専門的な相談に乗っても全く加点されません。

 医療効率を考えれば、どちらが有利かはいうまでもありません。患者の訴え、不都合に寄り添って対応する、ゆとりある診療をするよりも、話はあまり聞かずに検査を中心に行う医療の方が採算性がよいのです。

 これはおそらく、眼科医療に限ったことではないと思われます。

 こういうスタイルになっているのは、日本が戦後、経済性や効率を重視し、ゆとり、遊び、緊急時へのエネルギーの蓄えといったものに高い価値を与えてこなかったことなどが背景にあります。それが日本社会の常識になってしまいました。

 医療でも、医師数、看護師数、コメディカルスタッフ(医師の指示に基づくなどして医療分野で活動する専門職)数を少なめにし、労働時間を多めにするという、ゆとりのないシステムしか構築できなかったのです。

 だから、今回のような長期間続く緊急事態ではお手上げになりやすいのだと、私は思っています。

 この事態を打破する即効性のある方策はないでしょう。

 日本の医療は、国や医師会が主導しながら、これでよしとして構築してきた歴史的体制なので、待っていても容易には変わらないからです。

 患者(国民)の望む医療環境を作るには、患者自身も受益者として、医療の対価にこれまで以上の自己負担をする代わりに、患者のニーズに合わせた医療を実現すべく口出しもするようにならなければ、事態は打破できないのではないでしょうか。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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