山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
「おやすみなさい」と答えた子が3時間後、洗濯機の中で窒息死…同じ事故が起こり続けたのはなぜか?
地上の空気中には酸素が約21%含まれており、ヒトを含む生物は、その酸素により生命を支えられています。ヒトの肺の毛細血管から 肺胞腔 に出てくるガスの酸素濃度は約16%で、これが空気中の21%の酸素と濃度勾配に従って交換されます。
酸素欠乏症とは、ヒトにおいては、酸素濃度が18%未満の環境に置かれた場合に生じ得る症状です。酸素が不足すると、最も敏感に反応するのは脳の大脳皮質で、機能低下、機能喪失、脳細胞の破壊へとつながります。
内側から開けることができない構造
事例1:2015年6月、小学2年生の男児。東京都青梅市の自宅で、7日午後11時ごろ、寝室で「明日は学校だからね」と声を掛けると「おやすみなさい」と返事があった。約2時間後、部屋に行ったところ男児がいなくなっていた。8日午前2時ごろ、男児を捜し続けていた母親が、洗濯機の中にいるのを発見し、119番した。洗濯機は7日に届いたばかりで、男児はボタンに興味を示していた。母親に返事をした直後に中へ入ったとすると、閉じ込められていたのは約3時間で、死因は窒息死とみられている。警視庁は「気密性が高く、声を上げても聞こえなかったのかもしれない」とみている。
このドラム式洗濯機は、ふたは横向きで、床からの高さは50センチ前後。洗濯物を取り出しやすいのが特徴ですが、多くのドラム式洗濯機は、いったん中に入ると、大人の力でも内側からドアを開けることができない構造となっています。ドラム式洗濯機のふたにはガラスが使われるなど、構造上しっかりした作りになっていて、ある程度の重さがあります。このため、勢いよくふたを開けると、反動で戻ってきたふたが、完全に閉まってロックされ、閉じ込められてしまうことがあります。
2008年以降、米国や韓国でも、同様に子どもが洗濯槽に閉じ込められて死亡する事故が相次いでいました。わが国では、13~14年に、ドラム式洗濯機に閉じ込められたとみられる死亡事故が3件起き、2~5歳の子どもが亡くなっていましたが、捜査関係者は「一般的に家庭内の事故は公表しない」とし、表ざたにはなりませんでした(「『小さないのち』を守る」朝日新聞取材班著・朝日新聞出版)。公開されないため事故は起こっていないことになり、何も対策は行われません。そのため、以下の事例のように、同じ事故が起こり続けることになるのです。
事例2:2018年1月、5歳男児。午後3時ごろ、大阪府堺市の住宅で、この家に住む男児がドラム式の洗濯乾燥機(縦約1メートル、横約70センチ、奥行き約60センチ。扉が前面にあり、床面からの高さは約40センチ)の中でぐったりしているのを父親が発見し、その後、死亡が確認された。
最近のドラム式洗濯機では、運転中だけでなく、電源を切った状態でもドアが開かないようにできる「チャイルドロック機能」や、ドラム内に閉じ込められても内側からドアを開けることができる「閉じ込め防止機能」を付けた機種も販売されています。
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洗濯槽に入って蓋が閉まる事故のニュースはよく見聞きしたが、何で蓋が閉まるのか理解できなかった。思いっきり開けば反動で閉まる、実験したことはないけれど説得力がある。これまでのニュースでは、第三者が閉めたのだろうと勝手に想像していた。わが家にもドラム式洗濯機があるが、蓋の金具が壊れそうで実験はしたくない。
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