ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
残された犬(下)ホームの飼い犬になり、入居者を癒やし、天寿をまっとう
2015年の初夏、飼い主の高齢者が急逝し、自宅に取り残されていたミニチュアダックスフントのジローが、さくらの里山科にやってきました。同じ法人に勤務するケアマネジャーが担当していた高齢者だったので、さくらの里山科としては特例的な対応でした(※一般の高齢者の飼い犬・飼い猫の引き取りは一切行っておりません)。この時の推定では、ジローは10歳。ただ、その後のジローの状態から考えると、もっと年上だった可能性があります。
愛嬌たっぷりな動作 入居者の貴重な癒やしに
飼い主さんが突然死亡するという悲劇に見舞われたジローですが、ホームに来てからのジローは元気いっぱい。天真らんまんそのものでした。もともと高齢者に飼われていたためか、ホームの入居者が大好きで、皆さんに甘えてかわいがられていました。
ホームに来た時は太り過ぎで、ミニチュアダックスフントのただでさえ短い脚の間で、おなかが床にくっついていました。そんなジローが、脚をバタバタさせて元気よく動き回る姿は 愛嬌 たっぷり。入居者は大笑いしながら、こぞってジローを抱っこしていました。ジローは入居者全員の貴重な癒やしとなっていたのです。
太り過ぎは困ったことですが、元の飼い主の高齢者にかわいがられていた証拠だと思います。人なつっこく、誰にでも甘える性格も、やはり愛されていたのでしょう。ホームに来てからは、ダイエット用フードに切り替えるなどして、おおむね適正体重まで減量しました。
目が不自由になっても、意外なほど普通に生活
入居者にかわいがられ、幸せに暮らしていたジローですが、入居して2年たったころには白内障が進み、ほとんど目が見えなくなってしまいました。何回も獣医に通い、点眼薬による治療をしていましたが、加齢による進行は止められませんでした。白内障は、高齢になると多くの犬が発症する病気です。私たちは「推定年齢より、ジローはずっと年上かもしれない」と考えるようになりました。
鼻が利く犬は、目が不自由になっても意外と困らないものです。ジローも「本当に目が見えないの?」と疑問に思うほど、普通に暮らしていました。相変わらず元気いっぱいで、入居者の元に近寄っては、頭をスリスリしたりして甘えていました。ご飯の時間もすぐわかり、迷わずにご飯が入った器に突進していました。トイレの場所も間違えませんでした。
その1年後、ジローは名前を呼ばれても反応しなくなりました。聴力が落ちたのだと思われます。獣医さんも、正確には確認しようがないのですが、「おそらく聞こえていないでしょう」と診断しました。
耳が不自由になったら、タッチでコミュニケーション
こうしてジローは高齢のため、目も耳も不自由になってしまったのですが、それでも天真らんまんさは失われませんでした。入居者の位置を探して迷っていたり、まれにはテーブルの足に頭をぶつけたりしてはいましたが、ほとんど生活には支障がなく、元気いっぱいに暮らしていました。食欲も旺盛で、おやつの時には、鼻をヒクヒクさせながら、そして少しだけ迷う 素振 りを見せながらも、元気いっぱいに職員の元に突進していました。職員は、ジローの体にタッチして合図することにより、「ご飯だよ」とコミュニケーションをとるようになりました。
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