ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
残された犬(上)高齢で一人暮らしの飼い主が亡くなり、一歩間違えれば餓死
2019年12月11日、ミニチュアダックスフントのジローが死にました。推定年齢は14歳でしたが、おそらく推定よりはかなり年上だったと思われます。ミニチュアダックスフントの平均寿命は14.7歳(アニコム損害保険会社による調査、2016年発表)ですから、大往生だと言えるでしょう。
ジローがうちのホームにやって来た経緯は、まさに現代社会の高齢者とペットの問題を象徴していました。
身寄りがない飼い主が急逝
ジローは、一人暮らしの高齢者に飼われていたのです。当時の様子を知っているケアマネジャーによると、大変かわいがっていたそうです。それは、穏やかで人なつこい性格や、ホームに来た時の太り具合からもわかりました。きっと、幸せに暮らしていたのでしょう。しかし、ある日、その幸せな生活が突然打ち切れられてしまいます。飼い主の高齢者が急逝してしまったのです。この高齢者には身寄りがなく、ジローはただ一匹、取り残されてしまいました。
ちょうど同じ時期、読売新聞の地方版(湘南版)に、亡くなった高齢者の家で半年後に、餓死していた犬の遺体が見つかったというニュースが掲載されていました。おそらく同じような出来事は、全国で多々起きていると思います。ジローも一歩間違えれば、同じ運命をたどっていたかもしれません。
ケアマネジャーがボランティアで餌や水やり
幸いジローは、飼い主の高齢者を担当していたケアマネジャー(自宅で暮らす高齢者の相談援助をする専門職)が面倒を見てくれました。ケアマネジャーは高齢者が亡くなった後、毎日、高齢者の家に通ってジローに餌や水をやり、トイレの掃除をしていたのです。これはもちろん、ケアマネジャーの職務ではありません。ケアマネジャーは純粋なボランティアでジローの面倒を見てくれていたのです。
そのケアマネジャーは、私の法人が経営する在宅介護施設さくらの里のスタッフでした。ケアマネジャーは私のところにきて、ジローの相談をしました。幸運なことに、その時、やはり、私の法人が運営する特別養護老人ホームさくらの里山科(※名前がややこしくて、すみません。「さくらの里山科」は特別養護老人ホーム、「さくらの里」は在宅介護施設です)で、犬の入居枠には空きがあったので、すぐにジローを保護することができました。こうして、ジローはホームの入居犬になったのです。
飼い主が認知症で犬の正確な年齢は不明
当時のジローの推定年齢は10歳。ホームのかかりつけの獣医さんに推定してもらいました。皆さんは、「なぜ飼い主が分かっているのに推定なのか」と不思議に思われるかもしれません。それには、訳があるのです。
さくらの里のケアマネジャーが、ジローの飼い主の高齢者を担当するようになったのは、亡くなられる4年前のことでした。もちろん、その時すでにジローはいました。飼い主さんは軽度の認知症のため、ジローの年齢を聞いても返ってくる答えはいつもまちまちでした。そのため、ジローの正確な年齢はわからなかったのです。
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