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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

残された犬(上)高齢で一人暮らしの飼い主が亡くなり、一歩間違えれば餓死

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ホームでかわいがられ、元気いっぱい

入居者にかわいがられるジロー

入居者にかわいがられるジロー

 ジローはホームに来た時、とても喜んでいました。元気いっぱいにリビングを走り回っていました。とても人なつっこく、多くの入居者や職員のもとに駆けよっては頭をスリスリしたり、「なでて、なでて」と前脚をかけたりしていました。

 実は、そんなジローの姿を見て、私は少し切ない気持ちになったものです。私の愛犬も、私が亡くなっても、こんなに元気でうれしそうにしているのだろうかと。でも考えてみれば、ジローがうれしそうなのは当然でしょう。ジローは1週間以上、誰もいない家で一人ぼっちだったのです。さぞ心細かったことでしょう。その心配がなくなり、ほっとしたのだと思います。

 世の中には、ペットが大好きで、長年ペットと共に暮らしてきたのに、高齢になって飼うのをあきらめる方がとても多いのです。自分が先に死んでしまったら、ペットにつらい目に遭わせてしまうことを恐れるためです。

 ジローだって一歩間違えれば、餓死していました。おそらく、世の中で話題にならないだけで、亡くなった高齢者の自宅に取り残され、餓死している犬や猫は毎年多数いるのではと思います。

 また、保健所で殺処分される犬の半数前後が、何らかの事情で高齢者が飼えなくなった犬たちだと言われています。何らかの事情とは、高齢者が亡くなった場合のほか、老人ホームへ入居した場合、長期入院した場合、体が弱り、ペットの世話が不可能になった場合などです。ジローだって場合によっては、そうした犬の一匹になっていたかもしれません。

 一歩間違えれば餓死、あるいは殺処分。高齢者の飼い犬、飼い猫の運命は厳しいものがあります。

 それらのことを考えると、確かに、高齢になったらペットを飼うのをあきらめるのが正しいのかもしれません。若い人が「高齢者がペットを飼うのは無責任だ」と非難するのも、もっともです。しかし、高齢になり、伴侶をなくしたり、子供たちが独立したりして、寂しい一人暮らしになった時こそ、ペットの存在は必要になります。

高齢者とペットの暮らし 社会で支えたい

 ペットは高齢者の大きな癒やしになるばかりでなく、健康を増進させ、身体能力を維持し、認知症の進行を遅らせることすらできます。社会全体が高齢者とペットを支えて、安心して飼い続けられるような世の中になったら、どんなに素晴らしいでしょう。私は、そのような世の中を目指して、ペットと暮らせる特別養護老人ホームを造ったのです。

 ※さくらの里山科では、犬猫の直接保護はしておりません。高齢者やその家族、あるいはケアマネジャーから相談を受けても、犬猫を引き取ることは一切しておりません。ジローについては、同じ法人のケアマネジャーが担当していた身寄りのない高齢者の愛犬だったので、特別に保護した例外です。さくらの里山科で飼える犬猫の数には限りがあり、保護をしたために犬猫との同伴入居が受けられなくなっては本末転倒となるためです。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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