精子から見た不妊治療
医療・健康・介護のコラム
顕微授精にも限界 保険適用で考える生殖補助医療が「できること」「できないこと」
私たちの前回の連載「 精子に隠された『不都合な真実』 」(2019年9月~12月)と、今回の連載のメインテーマは、精子というフィルターを通して生殖補助医療のたどってきた道を振り返り、そして未来を展望することでした。
保険化で求められる費用対治療効果
ちょうど、これまでの連載の全体をまとめようという時期に、不妊治療の保険適用拡大が提言されました。私たちの周りでも、患者、医療機関、行政から様々な意見が出ています。
これまでの生殖補助医療は自費診療、すなわち民間の契約であり、医療機関と患者の合意のみで成立しました。しかし、保険化するとなると、健康保険事業を行う保険者や自治体との合意も必要であり、他の病気と同じように費用対治療効果が求められます。保険化の論議は、生殖補助医療が「できること」「できないこと」を考える、ちょうど良い機会です。精子研究者の視点で、保険化に向けて何が必要か、考えてみたいと思います。
最終手段としての顕微授精の登場
話を40年前に戻しましょう。生殖補助医療が最初にチャレンジしたのは体外受精です。両側の卵管が詰まってしまった女性の卵子を体外に取り出し、培養液の中で精子と受精させ、子宮に移植しました。受精に必要な精子がごくわずかで済むので、造精機能障害で精子が少ない方にぴったりでした。
しかし、運動精子を選別しても受精しないケースが多く、それならば、人の手で卵子に精子を入れてやろうと、顕微授精が登場しました。日本産科婦人科学会は「男性不妊や受精障害など、顕微授精以外の治療によっては妊娠の可能性がないか、極めて低いと判断される夫婦を対象とする」という見解を出し、この方法を最終手段と位置づけました。
ネズミの実験で、運動精子を卵子に入れれば、どんどん妊娠することがわかっていましたから、「1匹でも精子がいれば妊娠できます」「頭部が 楕円 の運動精子を刺します」という説明にも違和感はありませんでした。実務を担当する胚培養士という職種が生まれ、 穿刺 する針や機器にも細かい改良がなされ、各クリニックの受精率や妊娠率は、年々向上していきました。もはや、多少の精子の異常は気にする必要がなくなり、最終手段であった顕微授精は標準治療に昇格するとともに、ヒト精子の研究は一気にしぼんでいきました。
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