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精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

顕微授精にも限界 保険適用で考える生殖補助医療が「できること」「できないこと」

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保険化に欠かせない顕微授精の有効性評価

  そろそろ、「保険化の論議」に話を戻しましょう。顕微授精を例に挙げると、「どんなに精子の状態が悪くても妊娠できる」というイメージではなく、「精度の高い臨床統計」に基づき、顕微授精が「補助できること、できないこと」を明確にすることが、保険化の前提となります。

 私たちは、精密検査により精子異常の種類と程度をステージ分類した上で、まず妊娠できた夫婦(5年生産率)の統計をまとめることを提案しましたが、妊娠しなかった夫婦の解析も重要です。不妊はあくまで結果であり、夫、妻双方に数十、数百の原因があり、夫婦ごとに組み合わせが異なることが有効性の評価を難しくしています。

 過排卵誘発をおこなっても、卵子は数個から10個程度しか採れません。貴重な卵子、胚をすり潰して検査することは抵抗があり、結局、顕微鏡で形態を観察するぐらいしかできません。ヒトの卵子、胚は、ヒト精子同様に研究しにくい分野です。

卵子や胚の「隠れ異常」検査法開発も必要

  研究チームの挾間章博(福島県立医科大学教授、細胞統合生理学)は、顕微鏡で見て形態が良好な胚の中から、代謝が盛んなものを判別する研究をしています。形態が良好な卵子、胚に、様々な「隠れ異常」が潜んでいるのは、精子と一緒です。統計を取り始める前に、評価の基礎となる卵子、胚の精密検査法の開発が必要であり、越えなくてはならない山がいくつもあります。臨床統計をまとめることは、「言うは易く、行うは難し」であり、おそらく10年単位の時間が必要でしょう。

 治療を反復する重症の造精機能障害の夫婦も深刻ですが、ホルモンを投与しても卵子が育たず、採卵台に上がらなかった夫婦もまた深刻です。両者の背景には、「遺伝子の問題」が潜んでいるケースが多く、全ての生殖補助医療は、重症の配偶子(卵、精子)形成障害への対応には限界があり、将来的にも「標準治療」が確立する可能性は高くない、ということです。

インターネットは「できること」を強調しがち

  最後に、インターネットのお話をさせてください。みなさんは妊娠を目指しているのであり、当然、「こうすれば妊娠できる」「これを飲めば精子が増える」という情報を求めています。SNSにアップロードされた「精子を増やすといわれている〇〇」という情報が、引用を繰り返すうちに「〇〇は精子を増やす」に変わり、皆さんの心を捉えます。この連載でお話ししたように、サプリメントで精子を増やすことはできません。残念ですが、インターネット情報は信頼できるものばかりではありません。

 足かけ3年にわたる2度の連載で、ヒト精子研究者の視点から、生殖補助医療が「できること」「できないこと」を整理しました。みなさんが目にするインターネット情報は、とかく「できること」を強調しがちですが、「できないこと」もたくさんあることを、私たちはお伝えしたかったのです。

 この連載が、みなさんが正確な精子情報を検索する一助となることを祈りつつ、筆を置かせていただきます。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)

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精子から見た不妊治療

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

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