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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

使える抗がん剤が少なくなってきて心配です。もっと使える薬はないのでしょうか?

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イラスト:さかいゆは

イラスト:さかいゆは

薬の選択肢が少なくなっていくことへの不安

 近年、抗がん剤に加え、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、次々と新しい薬が開発され、使える薬の種類は着実に増えています。治療の選択肢が増えることに希望を感じる患者さんも多いようです。

 その一方で、治療が進むにつれて、自分に残された選択肢が少なくなっていくことに不安を感じる方もおられます。

 「今使っている抗がん剤が効かなくなったらどうしよう。使える薬が一つ減って、自分の希望も一つ失われてしまう。私にはもう希望が残されていないのではないか」と考えてしまうようです。

 ある患者さんは、「手元にはトランプのカードが何枚かあって、そこから一枚一枚出していき、手持ちのカードがなくなったところでゲームが終わるというイメージ」だと語ってくれました。

 治療の選択肢が増え、手持ちのカードが増えること自体はよいことだと思うのですが、カード1枚1枚に希望を重ね合わせている限り、希望が消費されて減っていく感覚や、それに伴う不安は解消しません。カードを増やすこと以上に重要なのは、治療そのものが「希望」だというイメージから離れることだと思っています。

治療は単なる道具 大事なのは治療目標

 治療は単なる道具にすぎません。道具は、何かの目的があって使うものであって、それを使うことが目的ではありません。希望をかなえるために使うのが抗がん剤であって、抗がん剤を使うこと自体が希望ではないのです。

 残された道具を数えるよりも前に、まずは、治療目標を考える必要があります。その上で、自分の手元にある道具を見て、目標に近づくのにプラスになるものがあれば、それを使えばいいし、目標に逆行してしまうような道具は、使わずに置いておけばよいのです。使える道具はすべて使わなければいけないなんて思う必要はありません。目の前に道具がたくさんあったとしても、一つ一つの道具について、それを使うことがプラスになるのかどうかを考えて使い分けることが重要です。

 「もっと使える薬はないのでしょうか?」というのは、別の医療機関で治療を受けていて、私のセカンドオピニオン外来を受診される方からよく受ける質問です。

 「治療の選択肢はたくさんありますよ」というのが、この質問に対するストレートな回答になります。具体的に、薬の候補を羅列してお伝えすることも可能ですし、それは、専門医にとっては容易なことです。でも、そういう情報をお伝えするだけでは、セカンドオピニオンとして不十分だと私は思っています。

 「選択肢があるなら使えばよい」というものではなく、実際に試すかどうかには、プラスとマイナスのバランスに基づく慎重な判断が求められますので、その考え方と判断材料をお伝えすることがより重要です。また、いくら選択肢を羅列しても、カードが減っていく不安には何も対処できていませんので、これについての説明も必要です。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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