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楢戸ひかる「シニアライフの羅針盤」

 「人生100年時代」と言われるようになりました。この長い後半生、「今まで通り」のやり方では乗り切れないかもしれません。やがて来る「シニアライフ」を実りあるものにするためには、今、どんな備えをしておけばいいのか?  お金のこと、そしてお金以外のこと……マネーライターの楢戸ひかるさんと一緒に考えていきましょう。

介護・シニア

年金だけでは不安なあなたへ…定年5年前から始める「複業」生活のすすめ

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 「コロナ禍で、収入を得る方法が一つなのはリスクだって思うようになった」という会話を、先日、友人としました。副業という言葉に、興味が湧く人も増えてきたのではないでしょうか?シニアライフになっても、年金に「+α」の収入があれば、暮らしの自由度は広がります。そんな折、五つの仕事を持つ山下弓さんが、「女性30代からの『複業』生活のすすめ」(さくら舎)を出版したというので、お話をうかがいました。

年金だけでは不安なあなたへ…定年5年前から始める「複業」生活のすすめ

イラスト:平松昭子

「LIFE SHIFT」で副業に対する抵抗や偏見が薄れた

 山下さんは、いま、<1>キャリアコンサルティング<2>ファイナンシャルプランナーとしての相談やセミナー講師<3>起業支援コンサルティング<4>生命保険の営業<5>「和み彩香(なごみあやか)」(色彩心理に基づいたカウンセリング)の五つの仕事を持ち、更にスタートアップ企業のCFO(最高財務責任者)として、経理・総務を担当しています。

 これまでも常に複数の仕事を持ち、自己紹介をすると「結局、何をやっている人なのか、よくわからない」と言われ続けてきたそうです。けれども、13年前、上の子が高校受験をするタイミングで夫の会社が倒産。当時はほぼ専業主婦だった山下さんでしたが、それからは、2人の子供の学費や生活費の大半を稼ぎ出してきた実績があります。

 「なぜ、『複業』という働き方を選んだのですか?」と聞かれた時には、「この生き方が、子育ても仕事もあきらめない一番の方法だったからです」と答えてきましたが、「正社員になって会社の制度を使いながら子育てした方が、安定しているでしょう」と返されると、会話はどこまでも平行線になることが多かったそうです。

 そんな周囲の反応が変わってきたのは、ここ3年ほど。最初に、「あ、風向きが変わったな」と感じたのは、『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社刊)という本がよく売れた後あたりです。

 「LIFE SHIFT」は、「人生100年時代」という言葉を世に知らしめた本として有名ですが、語られているテーマの一つに、人生のとらえ方そのものを変えた方が適切なのでは?という提案があります。それは、「教育→仕事→引退」という三つのステージで人生を考えるのは、長寿社会では無理があるということです。

 定年後の生活に詳しい経済コラムニストの大江英樹さんは、「老後とは、働くのをやめたところから始まる」とおっしゃっていました。「 定年後は月8万円稼ぐことができれば十分だ 」とも。この金額と複業は、何だか相性が良さそうな予感がします。

 山下さんは、「LIFE SHIFT」が注目された頃から、副業に対する抵抗や偏見が薄れていくことを肌で感じたそうです。今では、男性も「複業」に興味をもち始め、山下さんのセミナーには、性別関係なく、幅広い年代の方が参加しています。

複業は「組み合わせ」が大事 小さく始めて時間をかける

 最初に注目したいのは、「複業」は、「副業」ではない点です。厚生労働省が作成している「 副業・兼業の促進に関するガイドライン 」を見ると、「副業」は、正社員で働いたあと、残業代わりにほかの会社でアルバイトをするというイメージです。この働き方はどちらも「給与収入」なので、ふたつ重ねて働くという意味で、足し算っぽい働き方ですね。

 一方で、「複業」は、「給与収入」と「事業収入」を組み合わせていきます。つまり、「雇われて給料をもらう働き方」と、「起業してその事業で収入を得る働き方」を組み合わせるのです。さらに、それぞれの仕事に重なる部分があると、ひとつの仕事で得たスキルをほかの仕事に生かしやすくなります。異なる複数の仕事を組み合わせることで、それぞれが影響しあい、補完しあい、その人らしい個性的な仕事群になっていく……。いわば、掛け算の働き方といったところでしょうか。

 山下さんは、「複業をして、いくつかの仕事を手掛けることは、『専業の仕事一本で勝負に出る』という生き方ではなく、どの芽が出るのか、ゆるやかに可能性を探っていく生き方です。まずは、自分がその事業経営に向いているかどうかを試すためにも、小さく起業することをおすすめします。たとえば、喫茶店を開くのが夢だったら、店舗をもたなくてもいいイベント出店から始めてみるなど、小刻みにステップを踏むこと、現実的な最初の一歩を抵抗なく踏み出すことができる人は、複業に向いているでしょう」と話します。

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楢戸 ひかる(ならと・ひかる)

マネーライター
 1969年生まれ。大手商社に勤務後、90年代よりマネー記事を執筆。「誰もが安心してお金のことを学ぶ場」である「お金のリビング」を主宰。その入り口として、「ザックリ家計簿」ワークショップをオンラインにて開講中。詳しくはホームページ「主婦er」で。
 お金の記事だけでなく、「家族」や「暮らし」についてもコンテンツ更新中。

過去コラムはこちら

40代から備えよう「老後のお金」

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