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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

「国産」びいきはないのか イベルメクチンと新型コロナ 科学的データに基づく議論を

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「国産」ブランドは信頼の証し?

「国産」びいきはないのか イベルメクチンと新型コロナ 科学的データに基づく議論を

 スーパーに行くと、「この〇〇は国産の原料だけで作っています」といった製品広告をよく見ます。食品において「国産」であるというのは一種のブランド価値を与えるのですね。

 個人的には、国産であっても、おいしくなかったり、安全でなかったり、場合によっては産地偽装があったりするので、必ずしも「国産」であることが何かの保証になっているとは思いません。また、外国産の食品でも、おいしいものはたくさんありますし、安全なものも多々あります。ワインで有名な原産地呼称制度が日本よりもしっかりしている場合もあります。よって、「国産か、否か」を基準に食品を買うのは、なんというか、ちょっと間違ったブランド信仰だと思っています。

 たしかにブランド価値はばかにはできないところがある、とも思っています。ブランド品は一般にお値段が高めですが、その高さは信用の値段でもあります。ま、ひょっとすると、それぞれの品物のロゴのお値段なのかもしれませんが。この話をこれ以上引っ張ると、ブランド大好きな人からも、ブランドなんて関係ないわ、な人からも怒られそうなのでやめときます。今回は「国産の」医薬品、の話です。

大村智先生がノーベル生理学・医学賞を受賞 糞線虫や疥癬の特効薬

 理由はよく分からないのですが、少し前からイベルメクチンの話題をよく目にするようになりました。新型コロナウイルス感染症の治療や予防に「イベルメクチンがいいよー」と言ってくる人をよく目にするようになったのです。

 イベルメクチンは、もともと寄生虫の治療薬として開発された薬です。この原型となるエバーメクチンを大村智先生が開発され、そしてその成果によりノーベル生理学・医学賞を受賞されたので(2015年)、とても有名になりました。

 イベルメクチンは超偉大な薬です。その成果を最初に実感したのは1997年、ぼくが沖縄で研修医になったときです。沖縄にはHTLV-1というウイルス感染が流行していて、このウイルスは白血病とかリンパ腫といった血液の病気を起こします。で、この感染を持っている患者さんは、糞線虫(ふんせんちゅう)という寄生虫の重症感染を起こしやすい。この最大の治療薬がイベルメクチンなのです。糞線虫の重症感染は本当に怖い病気で、ぼくらも随分肝を冷やしたものです。イベルメクチン様々でした。

 とはいえ、日本におけるイベルメクチンはそれほど優遇された存在ではありませんでした。例えば、疥癬(かいせん)。疥癬はヒゼンダニという「ダニ」が起こす皮膚の感染症ですが、やはりイベルメクチンがとても効果を発揮します。ところが、日本では、長らくイベルメクチンを疥癬の治療に使えませんでした。代わりに使用されていたのがムトウハップという硫黄剤で、これは疥癬の治療効果もあまりありませんでしたし、硫化水素を発生させるので自殺に用いられるなど問題ありありの薬でした。イベルメクチンが2006年にようやく保険診療で疥癬に使用できるようになり、ムトウハップもやがて販売されなくなったのです。

 というわけで、大村先生がノーベル賞を受賞されて急に持ち上げられたイベルメクチンですが、日本では割と不遇をかこっていた存在だったのです。糞線虫の治療といっても沖縄などごく限定的な地域でしか知られていませんでしたし(全国的に言えば、日本の医者で「糞線虫感染」と言ってピンとくる方はかなり珍しいと思います)。これも一種のノーベル賞というブランド志向のなせる業ですね。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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