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ココロブルーに効く話 小山文彦

医療・健康・介護のコラム

【Track10】虫歯から顔全体に広がる激痛に。歯科、口腔外科、麻酔科でも治らなかった症状に対して精神科で行ったこと

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 人が、体のどこかに痛みを覚えるとき、その部分には炎症という現象が起こり、無理に負荷をかけられない事態が多く発生しています。「何のこれしき!」と我慢できる場合はまだしも、だんだん痛みへの意識が強まってしまうと誰しもが 憂鬱(ゆううつ) になります。行動の自由さが制限され、活力も奪われることで、心理的な視野が狭まり、それが心の苦痛にも変わってしまいます。検査では「異常なし」とされても、治まらない痛みには、その心理にも、たしかな手当てが求められます。今回は、私が医師として1年目に出会ったある患者さんのエピソードです。

夫をがんでなくした女性を襲った痛み

【Track10】虫歯から顔全体に広がる激痛に。歯科、口腔外科、麻酔科でも治らなかった症状に対して精神科で行ったこと

 ユキエさんは59歳の女性。その2年前の夏に夫を肺がんで失っていました。がんが見つかった時には、余命は厳しいことを医師から告げられていましたが、毎日のように病室で夫に寄り添い、話しかけ、快方に向かう希望を失いたくありませんでした。しかし、そんなユキエさんにとっても、日に日に容態が悪化していく夫の姿を目の当たりにしているうちに、どこかで覚悟のようなものができていたのかもしれません。

 7月下旬、夫の最期に立ち会ったユキエさんは、周りの親族からみても、意外なほど冷静に現実を受け止めた様子だったといいます。

 その年の10月のある日、右上の奥歯が痛み始め、近くの歯科医院にかかりました。

 う歯(虫歯)としての治療となりましたが、そのうち歯ぐき、そして下あごにも痛みが広がってしまいました。歯科医もこれには首をかしげるしかありませんでした。

 そのうち、夜も眠れないほどの痛みに悩まされ、遠方の総合病院にまで救急受診したことがあります。さらに、苦痛を緩和するためにと、何軒かの歯科医院を訪ねました。

 虫歯はしっかり治療され、歯科的に異常が見つからないにもかかわらず、どんな鎮痛剤もほとんど効果がありませんでした。

 「こんなに痛むのだから、その歯を抜いてほしい!」とユキエさんは取り乱してしまうようになりました。

 そのまま12月になっても激しい痛みが治まらないため、総合病院の 口腔(こうくう) 外科を受診し、最初に虫歯のあった上あごに神経ブロックの注射を受けました。

 この治療が、いったんは効いたようで、口腔外科、それに麻酔科の医師はペインスコア(痛みの尺度)の低下を認めましたが、それもつかの間のことでした。すぐに、原因がはっきりわからない痛みが治まらなくなったため、心因性の痛みを疑うようになりました

 翌年の1月、当時、私が勤めていた大学病院の精神科外来に、前医の麻酔科から紹介され、ユキエさんはやってきました。先輩医師の診察の後、入院予約となり、私が担当医となりました。

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小山 文彦(こやま・ふみひこ)

 東邦大学医療センター産業精神保健職場復帰支援センター長・教授。広島県出身。1991年、徳島大医学部卒。岡山大病院、独立行政法人労働者健康安全機構などを経て、2016年から現職。著書に「ココロブルーと脳ブルー 知っておきたい科学としてのメンタルヘルス」「精神科医の話の聴き方10のセオリー」などがある。19年にはシンガーソング・ライターとしてアルバム「Young At Heart!」を発表した。

 5月14日には、新型コロナの時代に伝えたいメッセージを込めた新曲「リンゴの赤」をリリースする(Amazon Musicなどでは先行配信中)。

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