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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

医療・健康・介護のコラム

「90分の倍数でアラームをセットすると、朝の目覚めが快適になる」は本当か?

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睡眠サイクルは個人差が大きい

 ところが、この作戦には二つの大きな誤解があります。

 第1の誤解は、レム睡眠を「浅い」「目覚めやすい」としている点です。確かに先にも書いたように大脳皮質の活動は高まっていますが、それと覚醒しやすさは別物です。例えば、さまざまな睡眠段階中に徐々に高まる音を聞かせて、どのくらいの強さの音で覚醒するかを調べることで、目覚めやすさを比較した研究でも、レム睡眠はノンレム睡眠に比べて決して目覚めやすいわけではないこと(覚醒 閾値(いきち) が高い、と呼びます)が分かっています。脳波上は覚醒に近い状態なのに覚醒閾値が高いという矛盾した所見から、レム睡眠は「逆説睡眠」とも呼ばれます。

 第2の誤解は、レム・ノンレム睡眠サイクルの周期を90分としている点です。これはあくまでも平均、一つの目安にすぎません。7~8時間眠る人の場合、一晩に3回から5回程度のレム睡眠が現れますが、その間隔には大きな個人差があります。1回目のレム睡眠までに1時間以内の人もいれば、2時間以上かかる人もいます。また、一晩の間でも1回目と2回目のレム睡眠、2回目と3回目・・・と、それぞれのレム睡眠の間隔は異なります。時には1回分スキップをして、3時間以上間が空くこともあります。年齢によっても変化し、中高年になるとレム睡眠の出現時刻は早まり、持続時間も短くなります。

 さらに、レム睡眠の出現するタイミングや持続時間は、ライフスタイルや心身の調子にも影響されます。例えば、日中によく活動し、適度な疲労があれば睡眠前半の深いノンレム睡眠の時間が増加します。すると、レム睡眠を後ろに押しやる力が働くため、レム睡眠の出現時刻が遅れます。逆に運動不足やストレス、うつなどがあると深いノンレム睡眠が減少し、相対的にレム睡眠の比率が高まります。つまり、同じ人でも日によってレム・ノンレム睡眠サイクルは変化するのです。

 このように、レム睡眠のタイミングや持続時間は個人差が大きいほかに、日々の変動もあり、年齢や体調、眠っている環境でも変わります。そのため、皆が皆、同じく90分の倍数でアラームをかけても「当たるも八卦」といった程度だと考えた方が良いでしょう。

いつか、オーダーメイドのAI目覚まし時計が

 それでは、目覚まし時計をどうセットすればもっとも快適で、寝坊をしない朝にできるのでしょうか。

 睡眠脳波を測定しながら、起床時刻近くの最後のレム睡眠が終了した後、浅いノンレム睡眠に移行したタイミングでアラームが自動的に作動する、それでも起きられず二度寝をして睡眠が再び深まりそうであればスヌーズ機能を作動させる、それでもダメなら大音響のアラームを作動させる、などの段階的な機能を持った「オーダーメイド目覚まし時計」があれば、目覚めやすいこと間違いなしです。

 これまでは技術的なハードルがありましたが、AI(人工知能)の発達で、睡眠脳波をほぼリアルタイムで解析できるシステムも登場しています。脳波の測定装置も操作が簡便で、かつ小型軽量化されています。手頃な値段で理想的な「オーダーメイド目覚まし時計」を入手できる時代も遠からず来そうです。

 とはいえ、ひどい睡眠不足があったのでは、浅いノンレム睡眠で覚醒できたとしても、起床後の爽快感や疲労回復感は得られません。まずは十分な睡眠時間を確保しましょう。

 「オーダーメイド目覚まし時計」は最後の一手にしたいものです。(三島和夫 精神科医)

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三島和夫(みしま・かずお)

秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授

 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本生物学的精神医学会理事、日本学術会議連携会員。著書に「不眠症治療のパラダイムシフト」(編著、医薬ジャーナル社)、「やってはいけない眠り方」(青春新書プレイブックス)、「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(共著、日経BP社)などがある。

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