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精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

精子の状態が悪い人に不向きな顕微授精 その実力と限界

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生殖補助医療は「重症」が苦手

 妊娠率を上げるには、分子(妊娠数)を増やすか、分母(施行例数)を減らすしかありません。顕微授精、胚盤胞培養、胚凍結保存を行うと、各ステップで弱い胚が脱落していきます。その結果、凍結・融解胚の移植例数を分母にして妊娠率を算定すると、値は高くなります。厳しい言い方ですが、分母になれるのは精子と卵子の状態が良いご夫婦です。

 もう一つ、重要な話があります。卵子は、卵胞内で約3か月かけて育ちます。ホルモンにより、卵の発育を補助する過排卵誘発法が開発され、女性側の治療成績は飛躍的に向上しました。実は、ホルモンによる補助が有効なのは最後の2~3週間であり、そこまで自力で育った卵子がホルモンの恩恵を受けることができます。

 排卵誘発で卵子が育ち、奥様が採卵台に上がったご夫婦は、その後の受精、胚移植、妊娠の臨床統計にカウントされます。一方、ホルモンを投与しても卵子が育たず、採卵台に上がらなかったご夫婦を臨床統計に加えると、妊娠率はさらに低下します。生殖補助医療は「重症」が苦手なのです。

新技術導入を競うクリニック リスクも伴う

 生殖補助医療は、先進技術を積極的に導入して、妊娠率向上を図るという傾向が強いことが特徴です。各クリニックは競って新技術を導入し、施設の高度性をアピールします。しかし、医療は必ずリスクを伴うものであり、生殖補助医療だけが例外ではありません。例えば、元々の精子や卵子の機能異常に加えて、排卵誘発や、私たち専門の研究者から見て選別精度が低い精子を用いた顕微授精、長期体外培養など、開発されて日が浅い医療技術には、まだ不明な点が多く残っています。

 今までは「元気なお子さんが生まれましたよ」で済んでいましたが、ヒトの一生は長く、平均寿命の80歳過ぎまで、生殖補助医療で生まれた子供の健康を注意深く見守っていく必要があります。晩発性障害(長い潜伏期間を経て症状が表れる障害)の問題はこれからです。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)

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精子から見た不妊治療

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

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