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認知症×発達障害 岡崎家のトリプルケア

医療・健康・介護のコラム

実家に駆けつけ第一発見者に 現実感なく「刑事ドラマみたい」…さよなら母さん(上)

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体が震えて動けない

 私の泣き叫ぶ声に状況を理解したご近所さんが、たー君に母さんの姿を見せまいと彼を居間から追い出し、「119に電話!」と叫んでいます。その声で我に返り、携帯を取りましたが、手が震えて、たった三つのボタンが押せません。

 やっとの思いで「119」に電話し状況を伝えると、電話口から「お風呂の水を抜いてください」との指示が。でも、体が震えて足がすくみ、お風呂場に入ることができないのです。「できませんー!!!!」と言う私に、電話の向こうから「頑張って! お風呂の水を抜いて!」と、励ましとともに指示が繰り返されます。

 しかしどう頑張っても、体が前に進みません。間もなくコロナ感染対策で防護服を着た救急隊員が到着。「あとは私たちがやります」と、お風呂場へ向かいます。出迎えた私は、過呼吸でそのまま玄関に倒れ込んでしまいました。

「発見時の様子」何度も聞かれ

 母さんの死亡が確認されると、救急隊員の1人が、床に倒れ込んだままの私の肩を叩き「娘さん、しっかりしてください!」と言い残して去ってきました。その声が聞こえていても、私はただただ泣き叫んでいるだけでした。

 入れ違いでやってきた警察官が「辛いのはわかりますが、第一発見者のあなたから、お話を聞かないといけないのです」と、すまなさそうに話し掛けてきます。そして、体に力が入らず、床にペタリと座り込んだままの私に対する事情聴取が始まりました。

 聞かれたことに答えようとすると、母さんの最期の姿がまぶたに浮かび、体が震え、過呼吸がひどくなり言葉が出てきません。

 その時、ご近所さんに抱きつきながら心配そうに私を見つめるたー君の姿が目に入りました。「たー君が見ている。しっかりしなくちゃ!」と、わずかに残された冷静な部分を奮い立たせました。間もなく到着したケアマネジャーが付き添ってくれたことも支えになり、担当者ごとに繰り返される事情聴取になんとか応じることができたのです。

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認知症×発達障害 岡崎家のトリプルケア

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の日々を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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2件 のコメント

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心よりお悔やみ申し上げます

ばっち

杏里さん、この度のお母さまの突然のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。今は混乱と疲労でどれほど心身が高揚した状態におられることか。杏里さんのご心...

杏里さん、この度のお母さまの突然のご逝去、心よりお悔やみ申し上げます。今は混乱と疲労でどれほど心身が高揚した状態におられることか。杏里さんのご心痛 お察しいたします。また、お弔いと一連の手続きが終わった後にお父さまやお子さまを支えながら、お母さまの不在がひしひしと胸に迫ってくる時期があるでしょう。私の父は二度の原発性のがん発症から5年を目前にして、母と出かけたささやかな旅先の異国のバスの中で心臓発作により帰らぬ人となりました。突然家族を亡くした者たちの後悔と苦しみは長く心をさいなみます。どうしても後回しになりがちですが、どうぞ杏里さんご自身のご健康を一番大切になさってくださいませ。岡崎家のケアは杏里さんご自身のセルフケアが加わったので、これからもトリプルケアなのですよ。お話好きのお母さまは、これからもきっと杏里さんの支えになってくださいます。そしてこの記事の続きは杏里さんがよいと思われるタイミングでお聞かせください。心が引きちぎられるようなつらい記憶を、今すぐもう一度文字にして報告する必要はありません。地球の裏側から杏里さんご家族のみなさまのことを思っています。少しでもお休みになれますように。

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大変でしたね

にゃま

初めて投稿します。私にも発達障害の娘がいて、実家の母は認知症やいろいろな病で10年前に他界はしておりますが、他人事ではないと感じて毎回拝読してお...

初めて投稿します。私にも発達障害の娘がいて、実家の母は認知症やいろいろな病で10年前に他界はしておりますが、他人事ではないと感じて毎回拝読しております。本当に大変でしたね。きっと今もいろいろな事で忙しいと思います。上手く伝える事ができないのですが、杏里さん、無理なさらないで下さいね。

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