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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

抗がん剤なんてつらいだけなのに、なんでやるんですか?

イラスト:さかいゆは

イラスト:さかいゆは

つらさを上回るものが得られるのかどうか

 もし、抗がん剤がつらいだけなら、やらない方がよいに決まっています。つらさを上回るものが得られるのかどうか、よく考えることが重要です。

 確かに、抗がん剤をやりたくてやるという人はあまりいませんし、つらい副作用もあるわけですが、副作用(マイナス)があったとしても、それを上回る「いいこと」(プラス)が期待できる場合に限って、抗がん剤を使います。

 どんな医療行為にもプラス面とマイナス面があり、そのバランスを慎重に考えて、行うかどうかを判断するのが医療の本質ですので、これは、別に抗がん剤に限った話ではありません。でも、抗がん剤には、医療の中でも特にマイナスのイメージが染みついていて、「つらいだけのもの」と思っている方も多いようです。

 もし、つらいだけでプラス面は感じられず、いやいや治療を受けているというのであれば、その治療をやめることを担当医と話し合うべきです。ただ、担当医は、「いいこと」があると期待して、その治療をしているはずですので、それをきちんと説明してもらうことが重要です。抗がん剤治療を行う医者は、「患者さんにつらい思いをさせるために治療をしている」と思われているのかもしれませんが、本当にそんな医者がいたら、すぐに医師免許を返上すべきでしょう。ほとんどの医者は、患者さんにとってプラスになることを願って、抗がん剤治療を行っています。その願いと、患者さんの認識が一致していないことが問題なんですね。

まずは、治療目標の共有を

 治療にあたって、まずすべきなのは、患者さんと、医療者と、家族やまわりの人たちで、目標を共有することです。「何のために治療をするのか」について、同じ認識を持ち、同じ目標に向かって進むことが、治療の大前提です。医者がよかれと思っていても、「何のためにやっているのかわからない治療」では、とてもプラスを感じることはできません。

 治療目標を共有した上で、次に行うのは、治療方針の話し合いです。一つひとつの選択肢について、プラス面とマイナス面を予測しながら、そのバランスを考え、患者さんの思いと、医療者の専門的な知識を出し合って、治療方針を決めます。

 ただ、プラスやマイナスをどんなに予測しても、「やってみなければわからない」という側面は残りますので、治療を開始したあとは、実際に生じているプラス面とマイナス面を慎重に評価することが重要です。マイナスよりもプラスが上回っている場合には、プラスをさらに大きく、マイナスを小さくできるように調整しながら、治療を続けます。マイナスが上回っている場合には治療中止など、治療方針の修正を検討します。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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