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大橋博樹「かかりつけ医のお仕事~家族を診る専門医~」

医療・健康・介護のコラム

糖尿病悪化、人工透析を拒否し納得の上、亡くなった……これも患者の選択なのか?

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透析を受けないなら遺影が必要になる

 次の日、私は彼に思い切ってこう言いました。「もし、透析をしなかったら数か月の命かもしれません。遺影を撮ってくること、できますか?」「ああ、いいよ」「わかりました、私が 看取(みと) ります」。自暴自棄ではなく納得の上での選択。私もそれを支援しようと考えを切り替えると、心のわだかまりが、すーっと消えました。これから起こりうる事態とその対処法について、奥さんを交えてじっくり相談しました。

 程なくして、彼は徐々に衰弱し、通院が困難になったため訪問診療に切り替わりました。血液中の老廃物が尿として 排泄(はいせつ) できなくなる「尿毒症」により、昼夜を問わず家中を歩き回ったり、奇声を上げたり、時にはお酢をラッパ飲みすることもありました。

透析しない場合に提供する医療がわからない

 彼の決断を受け入れると、私には次の課題が突きつけられました。透析をしない患者さんの尿毒症治療の経験はなく、文献やガイドライン等で治療法を調べてみました。しかし、書いてある治療法は「直ちに人工透析を行う」という記載ばかりで、透析をしない場合の治療法がわかりません。大学病院の腎臓内科の先生にも相談しましたが、やはり彼らも透析を拒否した患者さんの看取りの経験は乏しく、このような症状への明確な回答はありませんでした。

 教科書には、医師の立場から見た最善の方法は書いてあっても、患者さんそれぞれの選択に対するケアについては、ほとんど書かれていないということを改めて実感しました。その後、興奮を抑える向精神薬の投与によって、このような症状は少しずつ改善しましたが、徐々に意識も落ちてきて日中も眠りがちになってきました。

 この間、奥さんには随分、迷惑をかけました。でも、彼女は「ハイハイ」と言って、黙々と介護を続けました。そして、最期は奥さんと飼い猫に見守られながら自宅で旅立ちました。お看取りをした後の彼女の一言は忘れられません。

 「さあ、明日からフラダンスの練習がんばろう」

 夫を希望通りに見送った後は、自分の生活に戻る。ご夫婦で納得した人生がありました。

 実は最初に人工透析を提案して拒否された時に、内心、腹を立てていました。なぜ、ここまで説明しても理解してもらえないんだ。自分が学び、行っている医療を否定されたような気持ちになったからかもしれません。そんな私に彼と奥さんは、大切なことを教えてくれました。どのような選択であっても理由があること。それを理解し、希望に沿って最善の方法を考えることも家庭医として重要な役目であると学びました。(大橋博樹 医師)

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大橋博樹(おおはし・ひろき)

多摩ファミリークリニック院長、日本プライマリ・ケア連合学会副理事長。
1974年東京都中野区生まれ。獨協医大卒、武蔵野赤十字病院で臨床研修後、聖マリアンナ医大病院総合診療内科・救命救急センター、筑波大病院総合診療科、亀田総合病院家庭医診療科勤務の後、2006年、川崎市立多摩病院総合診療科医長。2010年、多摩ファミリークリニック開業。

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1件 のコメント

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標準医療は誰にでも正しいわけではない

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

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医療の宗教性と多様性という言葉を、投稿時に何回か使わせていただいてますが、医療と看護と介護をまとめてみれば、一般人には複雑すぎる部分も多く、好きか嫌いかと信じるか信じないかのレベルまで行くのではないかと思います。年齢の数字だけで区別するのもどうかと思わないでもないですが、一方で年齢は一つの大きな指標です。本人と介護者や看護者の意見の一致や相違はすごく大事です。こういうケースを見ると、開業医や地域医療の難しさを感じます。この患者さんと家族は納得してはくれましたが、尿毒症による精神疾患のような症状や腎不全症状、心不全症状などなどの中で、急に意見を変えたり、感情を爆発させてしまう場合もあるのではないかと思います。遺影を作らせるとか、精神的にかなり圧迫感と準備を与えているのは、翻意するか否かを見極める意味合いもありますが、そういう技術はもちろん学生時代に習うものではなく、人間的な理解を深めるための経験や読書などの代理経験が必要なのだとわかります。

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