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森本昌宏「痛みの医学事典」

医療・健康・介護のコラム

脳の手術から一か月後、半身に耐え難い痛みが…鎮痛剤が効かない「脳卒中後疼痛」 どう治療する?

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 Sさん(61歳男性)は、「元々、高血圧があったのですが、2年前に職場で倒れ、頭の緊急手術を受けました。意識が回復した後、左半身が動きにくいことに気づき、感覚も鈍くなっていたのです。右側の視床出血だったとのことでした。さらに1か月くらいしてから、左半身にジンジンとした強い痛みが出たんです。四六時中痛みが続くので、方々の病院でいろんな痛み止めをもらいましたが、まったく効きません。痛みが少しだけでも楽になれば……」と訴え、私の外来を受診された。

 Sさんのように、“脳卒中”(「脳出血」と「くも膜下出血」、「脳 梗塞(こうそく) 」を合わせて脳卒中と呼ぶ)の後に障害を受けた脳と反対側の半身まひを残した場合、まひが存在する部位に痛みを感じ続けることがある。この痛みが「脳卒中後 疼痛(とうつう) 」である。

「ジンジンとした」「裂かれるような」

脳の手術から一か月後、半身に耐え難い痛みが…鎮痛剤が効かない「脳卒中後疼痛」 どう治療する?

 1950~70年代には、わが国での死亡原因の第1位は脳卒中であった。その後、医療技術の進歩によって脳卒中による死亡率は低下したものの、脳卒中後痛に関する医学的報告はむしろ増えている。

 1906年に、視床(手足など 末梢(まっしょう) からの感覚情報の中継点)での出血後に、まひとともに耐え難い持続痛や発作痛が起こることが確認され、「視床痛」との呼び名が与えられた。しかし、その後、この痛みは視床のみではなく、大脳皮質、脳幹の出血や梗塞でも起こることが明らかにされたのだ。なお、特に肩や手を中心とする痛みを生じた場合には、「肩手症候群」(47年にスタインブロッカーにより命名された)と呼ぶが、この症状は、脳での問題以外に、「心筋梗塞」や外傷によっても生じている。

 脳卒中後痛では、感覚が低下している部位に、「ジンジンとした」「 () けるような」「裂かれるような」と表現される痛みが続く。さらには、感情の変化やストレス、通常は痛みを引き起こさない程度の刺激(例えば服がすれるなど)によって激烈な発作痛(アロディニアと呼ぶ)を誘発することもある。脳卒中後にこれらの痛みが発生するまでには、通常、数週間~数か月を要するが、脳梗塞に比べて脳出血の方がこの期間は短い。

 末梢からのさまざまな情報は、受容器(末梢神経の末端に露出している)から末梢神経、脊髄、視床を経由して大脳皮質へと届けられる。この経路(求心路と呼ぶ)のいずれかの部位の問題によって、情報の伝達機能が遮断されると、その後に激烈な痛みを生じることがある。これらを求心路遮断痛と呼び、脳卒中後疼痛の他、「脊髄損傷後疼痛」「腕神経 (そう) 引き抜き損傷後の痛み」「幻肢痛」などもその仲間である。

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森本 昌宏(もりもと・まさひろ)

 大阪なんばクリニック本部長・痛みの治療センター長。
 1989年、大阪医科大学大学院修了。医学博士。同大学講師などを経て、2010年、近畿大学医学部麻酔科教授。19年4月から現職。日本ペインクリニック学会専門医、名誉会員。日本東洋医学会指導医。著書に『ペインクリニックと東洋医学』『痛いところに手が届く本』ほか多数。現在、大阪市北区の祐斎堂森本クリニックでも診療中。

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