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がんのサポーティブケア

医療・健康・介護のコラム

食べても痩せる「がん悪液質」 栄養+筋力アップで生活の質を維持 食欲刺激する新薬も開発

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高山浩一・京都府立医大教授に聞く

オンラインでインタビューに答える高山浩一さん

オンラインでインタビューに答える高山浩一さん

 がんのサポーティブケアの連載2回目は、「がん悪液質」がテーマです。食べても体重が減少してしまう「痩せ」の症状に代表される悪液質。何が原因で、どんなケアが施されたり、研究されたりしているのでしょうか。京都府立医科大学教授(呼吸器内科)の高山浩一さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)

  ――がん悪液質とはどんな状態を指すのですか。

 代表的な症状は、痩せてしまうことです。食欲不振や倦怠感(けんたいかん)は、患者さん自身も病気かどうか判断しづらいと思いますが、体重減少は数字で出ますし、見た目にもはっきり変化が分かるので、一番自覚できるところだと思います。体重が急に減ると「がんではないか」と疑うのは、一般の方にも割と浸透しているのではないでしょうか。

  ――がんで痩せるのは、ダイエットなどで痩せるのとは、どう違うのですか。

 体重が減る原因には、まず栄養が不足することによる「飢餓」があります。ダイエットで痩せるのも同じです。一方、悪液質が飢餓と違うのは、食べても痩せてしまうことです。

 実は、悪液質はがんに限った話ではなく、いろんな病気で起きます。昔でしたら、結核にかかって痩せてしまい、「栄養をつけなくては」といったようなドラマの場面でもよく描かれている状況です。実はがんの悪液質も、他の病気の悪液質と基本的な部分では変わりません。

慢性の炎症がエネルギーを消費

  ――食べても痩せてしまうのは、なぜですか。

 一つの理由は、慢性の炎症が体の中に起きることです。慢性の炎症のために、摂取する以上のエネルギーを消費し、痩せてしまいます。

 さらに、飢餓による痩せは脂肪から先に分解されるのに対し、悪液質の痩せは、体にとって大切な骨格筋の筋肉まで分解してしまいます。これが大きな問題です。

  ――骨格筋が分解されるのは、なぜですか。

 まだよく分かっていないのですが、アミノ酸を取り入れて筋肉を作るたんぱく質に変える「たんぱく同化」を阻害する物質を、がん細胞が出していることが、最近の研究で分かってきました。慢性の炎症に加え、がんそのものが積極的に関与している可能性が考えられています。

診断基準 6か月間に体重が5%以上減少 肺がん 消化器がんで多く

  ――悪液質の診断基準はありますか。

 10年ぐらい前までは、アメリカのエバンス先生が提唱した基準が使われていました。体重減少や筋力の低下、食欲の低下のほか、炎症反応や貧血の程度を加えて評価する方法ですが、複雑すぎて日常臨床では使いづらい面がありました。

 そこで欧州の緩和医療の会議が2011年に、がんに特化した悪液質の基準を作成しました。「過去6か月間に5%以上の体重減少」があったら悪液質と考えるもので、体重だけで判定するため非常に使いやすくなりました。

  ――6か月間で5%というと、簡単にあてはまってしまいそうですが。

 確かに、体重60キロの患者さんでしたら、3キロ減ったら該当します。別の原因による痩せも含まれる可能性はありますが、分かりやすくすることで、見落としを少なくし、早い段階から積極的に対応しようという意図が込められていると思います。

  ――進行がんの患者だと多いのですか。

 進行しているかどうかだけでなく、悪液質になりやすいか、なりにくいかは、がんの種類によっても異なります。胃がん、大腸がん、膵臓(すいぞう)がんなどの消化器がんは、体重減少の頻度が高いです。なかでも膵臓がんは、最も悪液質になりやすいがんです。

 加えて、肺がんの患者さんは、消化器には特に問題がなく食事はできていても、痩せてしまうことが多い。悪液質が典型的に表れるタイプのがんと言えます。このほか、頭頸(とうけい)部がんも悪液質が起きやすいがんです。

 これに対し、乳がんでは、あまり体重の減少は起きません。理由はよく分かっていませんが、がん細胞が筋肉や脂肪を分解する関わり方が、がんの種類によって違うのではないかと考えられています。

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がんのサポーティブケア

 がんやがん治療に伴う副作用が及ぼす痛みやつらさを和らげ、がんと闘う患者を支えるのが「がんのサポーティブケア(支持医療)」です。手術や放射線、薬物療法をはじめとする、がんを治すための医療と車の両輪の関係にあります。この連載では、がんに伴う痩せの悩みや、治療に伴う副作用、痛みや心のケアなど、がんのサポーティブケアが関わるテーマについて月替わりで専門家にインタビューし、研究の最前線や患者・家族らへのアドバイスについて伺います。

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