文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

リングドクター・富家孝の「死を想え」

医療・健康・介護のコラム

医療崩壊の最大の問題、どの患者を救うか選ぶ「トリアージ」は医者任せでいいのか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
医療崩壊の最大の問題、どの患者を救うか選ぶ「トリアージ」は医者任せでいいのか?

 新型コロナウイルスの感染拡大で、患者を受け入れている医療機関からは「医療崩壊」の声が上がり始めています。政府もようやく病床の増加に動き始めましたが、私が聞いたなかで最も深刻なのは、「このままではトリアージ(命の選別)をせざるを得なくなります。それだけは、やりたくありません」(都内のある病院の院長)というものです。そのような事態にならないよう願っていますが、対策は最悪も想定しておかなければいけません。

すべての患者に最善を尽くせない

 トリアージというのは、たとえば、重症患者が3人いて人工呼吸器をつけなければ助からないとき、空いている人工呼吸器が1台とすればどうするかということです。つまり、1人は助けられますが、2人は助けられない。2人は死を覚悟してもらうほかありません。誰を生かして誰を生かさないか。これを決めるのがトリアージです。

 医者の使命は、どんなことがあろうと命を救うことです。これが、医療従事者としての倫理であり、心情でしょう。とすれば、トリアージをしなければならなくなると、この倫理観は崩壊してしまいます。つまり、医療崩壊というのは、医療システムが物理的に崩壊するということだけではなく、人の心まで崩壊させてしまうのです。医療従事者の心が破壊されたらどうなるでしょうか?

 感染症の拡大というは大変に厳しい現実を突きつけてくるのです。菅義偉首相は、記者会見で「国民の命を守るために全力を挙げる」と繰り返し述べていますが、そんな可能性を十分に理解しているのでしょうか。

病床はあるのに医療崩壊を招く日本の医療体制

 日本が欧米諸国に比べて感染者数、死亡者数が圧倒的に少ないにもかかわらず、トリアージをしなければならいところまで追い詰められているとすれば、医療システム、医療リソースが偏っているからです。

 日本の人口10万人当たりの病床数は世界一で、厚労省の統計を見ると約160万床ありますが、このうちコロナウイルスに対応できる病床数は全国で約3万床。全病床数の約2%に過ぎません。日本の病院の約8割は民間病院で、欧米のように政策目的に合わせて、医療リソースを調整することが難しいのです。民間病院はコロナ患者を診ると、赤字になり存続できなくなるので、患者を受け入れません。

 第3波の急拡大を受けて政府は18日からの国会で、行政が民間病院に患者の受け入れを勧告できるよう感染症法改正に動きだしました。冬の感染者数の増加は、予想されていたことだったので、本来は寒くなる前に対策をとっておかなければならなかったはずです。病院で患者を受け入れきれず、自宅などで療養中の死者が増えてきてようやく動き出したといった形です。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

fuke-takashi-prof200_v2

富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

リングドクター・富家孝の「死を想え」の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事