新・のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行
医療・健康・介護のコラム
薬剤師、僧侶、がん患者として 患者と家族が話し合える場をつくる 最期の時間を自分らしく過ごすために
会でのやりとりを通じて自分の言葉で語れるように
具体的な活動として「がん患者と並走する家族の心得セミナー(13回シリーズ)」を、2020年11月から21年3月まで開催している。インターネットによる配信もしているので、全国どこからでも参加可能だ。メインの対象を「家族」として、再発転移、放射線治療、緩和ケア、療養場所の選定などをテーマとして学ぶ。
このセミナーの一番の特徴は、医師などの専門家の講演に続き、病気の実体験を持つ方が登壇する点だ。講演の後の意見交換会では、当事者ならではの深い思いを持つ言葉が交わされ、診察室では聞くことのできない体験者の語りに、講演した医師も真摯(しんし)に耳を傾けている。
会のもう一つの特徴は、疾患を限定していないことだ。家族や暮らしを大切にし、人生を語ることに病名は関係ない。誰もが立場や病気に関係なく、参加することができるのだ。
そこで、教養講座として、医療や暮らしを学ぶセミナーも開いている。医療的な手技や治療法を学ぶことは目的ではない。医療者が登壇する講座であっても、様々な経験を持つ参加者(患者・遺族など)とのやり取りで生じてくるものを道しるべとして、共に考え抜こうという空気感を大切にしている。その場で光を見つけようとする姿勢が未来の暮らしを変えると、宮本さんは信じている。
さらに、毎月開催しているオンライン座談会も大切な活動の一つである。「延命治療」「親戚づき合い」というように毎回違うテーマを決め、それぞれの立場から考えを述べ、人の話に耳を傾ける。様々な背景を持つ人が集まる会だからこそ、気づかされることも多い。また、促された時に何かしらの発言をする積み重ねにより、参加者が徐々に自分の言葉で語れるようになることを宮本さんは期待している。
自分の人生観を大切にした医療を受けたい
私自身も、延命ではなく、自分の人生観を大切にした医療を受けたいと考えている。そのために、主治医へ要望書を渡したり、薬剤師とその思いを共有したり、さらにはカフェのお客さんとチャレンジしたいことを語り合ったりしている。
宮本さんは大学や医療者向けの研修会で講演することもあるそうだ。薬剤師、僧侶、がん患者としての背景を持つ立場からの話は、面白くも役立つものであると容易に想像できる。
お勘定の小銭を取り出しながら、彼はこう付け加えた。
「命は大切だという言葉は誰も否定しないでしょうし、私もそう思います。でも、『生きる』とは、命よりも大切なものに気づいていくことかもしれない。今、そんなふうに感じ始めています」
カフェから出て行く後ろ姿を見ながら、宮本さんともっともっと深い話をしたいと私は思った。
活動も魅力的であるが、あの柔らかく、すべてを包んでくれているかのような空気に何より魅力を感じる。彼が入店してきたときに、私が直感的に思った、ただならぬ雰囲気は現実のものだ。これからの彼の活動が力強く感じられた。(鈴木信行 患医ねっと代表)
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