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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

1か月女児を抱いたまま母親が運転 帰宅したら反応なく18時間後死亡…スリング内での窒息を防ぐには

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 これまでは、首が絞めつけられて息ができなくなる窒息についてお話ししましたが、今回は、胸郭が圧迫されて呼吸できなくなる窒息についてお話しします。どの事故も、発生した状況を大人が見ていないので、推測されたものです。

1か月女児を抱いたまま母親が運転 帰宅したら反応なく18時間後死亡…スリング内での窒息を防ぐには

イラスト:高橋まや

  事例1 :2018年2月、4歳男児。長野県高森町で、年少児23人、年長児23人、保育士4人の総勢50人で園外保育活動をしていたところ、男児が墓石(高さ78.5センチ、奥行き20センチ、幅38センチ、重さ139キロ)の下敷きになり、4日後に死亡した。頭部や肺、心臓、腹部臓器に致命的な損傷が認められなかったことから、呼吸不全、すなわち胸郭の圧迫による窒息が死因と推定されている。

  事例2 :01年3月、小学5年生男児。岩手県沢内村(現・西和賀町)の小学校の校庭で、春休みにグラウンドで友達と遊んでいたところ、融雪作業で作られた雪氷塊(高さ140センチ、幅170センチ、厚さ50センチ、重さ約220キロ)の下敷きとなった。雪は、寒さでコンクリートのように固まっていた。胸部圧迫による窒息状態で、一度も意識が戻ることなく約2か月後に死亡した。

 幼児の胸部に、体重の3倍以上の静的荷重が持続的にかかると、呼吸運動が阻害され、胸部圧迫死に至る危険性が高くなると指摘されています。

体が動かなくなったのを「寝た」と思い…

  事例3 :19年6月、6歳女児。母親が用事をすませる間、自家用車の中で待っていた。母親が車を離れるとき、女児は眠ってはおらず、車の中を移動できる状態であった。20分後に母親が戻ると、3列目のシートの背もたれと座面のあいだに体が挟まれ、うつぶせ状態になり、2列目シートとのすき間に頭が垂れていた。鍵は車の中にあったため、救急隊の出動を要請し、母親は窓ガラスを割って助手席から車の中に入った。すでに心肺停止状態で、母親により心肺蘇生が行われた。7分後に救急隊が到着し、病院に搬送された。首に圧迫の痕はなく、左血気胸( 胸腔(きょうくう) 内に血液や空気がたまった状態)が認められた。人工呼吸管理、体外式膜型人工肺(ECMO)などの治療が行われたが、重度の障害が残った。

  事例4 :09年10月、2か月の女児。電車の中、母親にスリングで抱っこされていた。スリングは一枚布で、顔を含めて全身を包み込むように使用していた。16時20分頃、スリング内で本児が眠っているのを確認した。16時45分に電車を降り、その5分後に体が動かなくなったが、母親は女児が寝たと考えた。17時過ぎ、帰宅してスリングから子どもを降ろしたところ、呼吸をしていなかった。すぐに救急を要請し、病院に搬送されたが約8時間後に死亡した。

  事例5 :19年3月、1か月の女児。午前0時頃まで両親とともに飲食店にいた。0時5分に授乳した。帰宅の際、母親は運転席に座り、女児をスリングで抱いた状態でシートベルトを着用。両手でハンドルを握って運転した。午前0時30分頃自宅に着き、本児をベッドに寝かせようとしたところ、鼻出血があり、反応がないことに気づいた。救急を要請して入院したが、その日の夕方に死亡した。

 アメリカやカナダでも、スリング内での乳児の死亡例が報告され、死亡原因として、スリング内での首の屈曲による上気道の 閉塞(へいそく) 、体の前屈による胸郭の拡張制限、体温調節の異常などが推測されています。スリングを使用する場合は、常に子どもの顔が見えている状態で使用しましょう。

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。産業技術総合研究所人工知能研究センター外来研究員、キッズデザイン賞副審査委員長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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