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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

医療・健康・介護のコラム

子どもが頭をぶつけた!……病院へ行くか様子を見るか、判断のポイントは?

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 当直をしていると、救急外来からの電話が鳴りました。

 「ソファから落ちて頭をぶつけたお子さんを連れて心配そうなご夫婦が来ています」

 1歳を過ぎたばかりのA君は、伝い歩きが大好き。あちこちよじ登ることもできるようになりました。その日の夜、お父さんとお母さんが夕食後の片付けをしていた時、「ゴン!」という音が。見るとソファの横でA君は大泣きしています。ちょっと目を離した短い時間にソファをよじ登り、落ちてしまったようです。額にはたんこぶができていました。

 本人はすぐに泣きやんでケロッとしていますが、頭をぶつけています。ご両親は慌てました。「どうしよう!」と病院に駆け込んだというわけです。

 頭部打撲は、小児科の外来で一番よく対応するケガのひとつです。保護者が遭遇する機会も多いでしょう。今回はそんな時に対応を迷わないためのお話です。

イラスト:江村康子

イラスト:江村康子

5歳以下のケガでもっとも多いのは転んで頭をぶつけるケース

 東京消防庁がまとめた 5歳以下の事故種別ごとの救急搬送人員のデータ(2014~18年) はグラフの通りです。乳幼児では「落ちる」と「ころぶ」事故が多いことが分かります。0歳児はベッドやソファなど家具からの転落事故が多いです。1歳過ぎに一人歩きを始めると階段や椅子、ベッドからの転落が増え、机やテーブルなどに引っかかって転ぶ事故も増えます。2歳以降は階段や椅子、テーブルでの転倒に加え、自転車の補助椅子からの転落も多く発生しています。

 状況は様々ですが、病院に来る理由は、落ちたり転んだりした結果、「頭をぶつけた」というものが多いです。子どもは頭が大きく重心が高いので、バランスを崩すとたいてい頭をぶつけます。A君のように家具によじ登って落ち、頭をぶつけるケースは非常によくあるケースなんですね。

 ぶつけた後、症状ごとの注意点を見ていきましょう。

たんこぶの多くは心配ないが、側頭部や後頭部では注意

 頭をぶつけると、擦り傷や切り傷、たんこぶ(皮下血腫)ができることもあります。子どもの頭皮は薄く成人と比べて血液の供給が多いため、傷は意外と出血しやすく、たんこぶができやすいです。たんこぶができると心配ですよね。しかし、そのほとんどは自然に吸収されるため心配はありません。当然、大きなものほど受けたダメージも大きかった可能性があります。また、たんこぶの位置も重要で、側頭部や後頭部にある場合には頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷のリスクが上昇するという報告もあります(1)(2)。逆におでこのたんこぶは、それ以外に症状がなければ、それほど心配はいりません。

幼児だと頭痛を訴えられず、不機嫌になる場合も

 頭をぶつけたときに多い症状としては、頭痛があります。実際に頭をぶつけた子どもの約半数で頭痛があったというデータもあります(3)。頭痛がひどくて心配な場合にはご相談いただいて構いませんが、頭痛そのものはありふれた症状で、それ以外に症状がなければまず心配する必要はないことも知っておくと安心かと思います。

 もっともA君のように1歳前後のお子さんなどは頭痛を訴えられず、その代わりに機嫌が悪くなったりします。ただ、機嫌の悪さは、頭痛以外の可能性もあります。小さい子の症状を正確に拾い上げるのは難しく、機嫌が悪く明らかに普段と違う症状の場合には受診して相談が無難です。

子どもは吐きやすいが、繰り返す場合や元気がない時は受診を

 頭をぶつけた後、お子さんは吐くことがあります。「頭の中で何か悪いことが起こっているに違いない、救急車を呼んだ方がいいのでは」と思われるかもしれませんね。でも実際には、子どもは頭をぶつけた後、大人よりも 嘔吐(おうと) しやすいです。軽くぶつけただけで吐いてしまうこともあります。その原因ははっきり分かりませんが、脳機能の未熟さからきていると考えられています(4)。

 実際に頭部打撲の患者さん4万2112例を調べた調査では5557人(13.2%)に嘔吐症状があり、それ以外に症状があった場合に脳損傷がみられた割合は2.5%でしたが、嘔吐以外に症状がない患者では脳損傷は0.2%にしかみられませんでした(5)。

 つまり、たんこぶ、頭痛、嘔吐はそれぞれが単独の症状で出ていて、他に症状がなければそれほど慌てる必要はありません。症状が組み合わさっていたり、何度も繰り返し嘔吐して元気がなくなったりした場合は詳しく検査が必要ですので受診してください。

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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