大橋博樹「かかりつけ医のお仕事~家族を診る専門医~」
医療・健康・介護のコラム
86歳の男性、気管支ぜんそく悪化の原因は妻の死……必要なのは悲しみのケア
私のような「家庭医」は、どんな患者さんを対象に診療や仕事を行っているのか、ある一日を紹介したいと思います。地域のニーズに徹底的に応えたい。この思いで、川崎市に多摩ファミリークリニックを開業して10年になります。医師4名で外来診療と在宅診療を行っています。
クリニックの朝は比較的早く、朝7時に出勤して一日の業務が始まります。この時間が、最も静かで集中できる時間です。8時になると、オフィスのラウンジに医師たちが集まり、在宅患者の前夜の申し送りが始まります。在宅医療を受けている患者さんには、休日夜間の緊急連絡先をあらかじめ渡しており、体調の異変や困ったことがあった場合は、まずはこの連絡先に電話するよう伝えてあります。この電話は、当番の医師が直接、対応することになっています。そろそろ最期の時が迫っているAさんの奥さんからの不安な気持ちを吐露する電話について共有し、本日も午前中に看護師が訪問することとなりました。
子どもの中耳炎や風邪、気管支ぜんそく……外来はさまざま
9時から外来診療が始まります。この日始めの患者さんは、8か月の女の子。初めての発熱で来院となりました。1人目のお子さんで、お母さんの不安も強そうな印象でした。中耳炎が原因で、機嫌も良いため、内服薬を処方して帰宅となりました。お母さんからは、「熱を出したらすぐに受診しても良いのですか」と聞かれました。「お母さんが不安なうちはいつでも受診して良いですよ。慣れてくると、受診するのが面倒になってくるはずですよ」と答えました。

イラスト:赤田咲子
2人目の患者は、86歳男性。気管支ぜんそくで定期的に通院されていて、薬もきちんと服用されており、安定していました。しかし、1か月前から発作で度々受診するようになりました。なぜ、悪くなったのでしょう? 実は、最愛の奥様を突然亡くされ、全てにやる気が起きなくなったのでした。看護師と共にグリーフケア(残された家族へのケア)と臨時の自宅訪問の方針を決めました。少しではありますが、ほっとされた表情を見せていました。
その後も、子どもの風邪から高齢者の介護の相談まで、ありとあらゆる問題が診察室に持ち込まれます。午前の診療の後は、すぐに自転車で区役所へ向かいました。介護認定審査会に出席するためです。介護認定審査会とは、申請された方に対し、「要支援2」や「要介護3」などの介護認定を行う会議です。このような会議が週に数回、区役所で行われますが、医師の意見は大変重要なので責任重大です。
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観察の重要性とワークフローの管理
寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受
僕の勘違いかもしれませんが、半分以上の判断や行為は医師どころか、医療者である必要もないことかもしれません。 言い換えますと、人間としての基本の情...
僕の勘違いかもしれませんが、半分以上の判断や行為は医師どころか、医療者である必要もないことかもしれません。
言い換えますと、人間としての基本の情報や心の動きを把握することが重要なのではないかと思います。
処方は医師権限でも、内服の実行までの実際は、剤型も含めて介護や看護との協調作業です。
また、趣味や日常動作との関連性もあります。
そういう話まで正確に聞き出すには普通の若手医師にはセンスと努力の積み重ねが必要なのでしょうし、全ての医師にそれが備わってない事はむしろ責められても困る気もします。
専門知識や技術に資格の習得が凄く重荷になっている現状と、昭和の昔に比べて、個別化された医学生の人生や医師キャリアが、世代や生育環境の違うことの多い患者や社会と病院を繋ぐストーリーや知識に比較的乏しい部分があって、そこをどうするかという課題があるからです。
医学的な病名は頭に入っていても、昔ながらのモノや言葉であったり、地域や時代ごとの生活習慣もあります。
実は昔もそうだったのかもしれませんが。
もう一つ見るべき点は、医学的知識との複合でトリアージです。
自分やチームでの介入が可能か不能か、可能ならどの程度可能か、急ぎか否か、どれくらい待てるか、がキーになります。
小児の中耳炎に伴う発熱の話でも、その推定診断で、その時刻や場所でやるべきことと、もしもその診断治療で想定外の症状が出た場合に、薬剤の変更や他疾患の合併も考えて、早い時間での紹介になっていくと思います。
こうやって文字にするのは簡単でも、認識の壁、人間関係の壁、その他、社会には色々な事があります。
それを知るためにも、他職種や他施設について知る必要があります。
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