森本昌宏「痛みの医学事典」
医療・健康・介護のコラム
その「ひどい肩こり」は椎間板ヘルニアかも…頸椎でも起き、せきやくしゃみで悪化する
10年も前のことになるが、私も「 頸椎 椎間板ヘルニア」による痛みに苦しんだ。以下、私自身の経験を踏まえて、紹介しよう。なお、ヘルニア(hernia)とは、抵抗の弱った部分から臓器や組織が脱出する状態である。わかりやすい例を挙げるならば、俗にいう“脱腸”の「 鼠径 ヘルニア」、腹部の手術後にみられる「腹壁 瘢痕 ヘルニア」などである。椎間板ヘルニアでは、椎間板(背骨を構成する 椎体 と椎体の間でクッションの役目を担っている)の中央よりやや後方にある髄核(ゼラチンのようないわゆる椎間板の“芯”。周囲は線維輪と呼ばれる組織に囲まれている)が、線維輪の亀裂から脱出するか、髄核が線維輪や軟骨板を伴って膨れ上がり、神経根や脊髄を圧迫する。
「センセ、どないしはったん?」
私はその約2か月ほど前から、右手の親指のしびれが気になってはいた。ゴールデンウィーク初日の朝に、突然、右肩から上腕に激しい痛みが出て、右肩の筋肉には、骨かと 見紛 うばかりの塊(押さえると痛みを引き起こすトリガーポイントである)が形成されていたのである。旅行に出かける朝のことであり、検査を受けることもままならず、つらい旅行となった。
休み明けになると、痛みは仕事も手につかないくらいに強くなり、右手の握力も明らかに低下した。頸椎MRI(磁気共鳴画像)を撮ってみると、案の定、見事な椎間板ヘルニアが見つかった。七つある頸椎のうちの第5頸椎と第6頸椎の間の髄核が後外側(右側寄り)に飛び出したことによる神経根症(いわゆる神経痛)である。この場合には、第6頸神経の圧迫によって親指を中心としたしびれが出現する。「あぁやっぱりな、ボクの診断どおりやなあ」と妙に感心した次第である。原因として思い当たる節はない、年かなあ。
その後、頸部硬膜外ブロックと 牽引 を受け、痛みは徐々に軽くなったが、患者さんの診療には四苦八苦したことを覚えている。パソコンに向かうのがとってもつらいのである。首にポリネック(簡易固定器具)を巻いていたので、患者さんから「車、ぶつけはったん?」とよく聞かれたが、車はぶつけていません。診察室での会話は、まず「センセ、どないしはったん?」から始まり、ひとしきり私が自分の病状を説明したあと、「で?」と患者さんの話に移るのである。終了後に「お大事に」と言われる始末で、トホホの極みである。
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