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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

遠隔転移があると、がんは治らないのですか?

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がんをゼロにすることよりも、「いい状態で長生きすること」が大切

 がんがゼロになるということが本当に重要なのでしょうか。

 がんがあってもなくても、「いい状態で長生きすること」の方が大切で、そこに望みがあるのではないでしょうか。

 根治が難しくて、将来的に命を脅かす病気はほかにもたくさんあります。動脈硬化とか糖尿病などはその代表です。でも、これらの病気では、「治る」と「治らない」の間に希望と絶望の壁があるようなイメージはありません。動脈硬化を指摘されながらも、あまり気にすることなく、普通に生活している方はたくさんおられます。

 これががんになると、「治らないというのは絶望的」というイメージになってしまいます。動脈硬化や糖尿病のように、適切に治療して、うまくつきあえればよいと思うのですが、がんの場合は、どうしても、イメージが先行してしまうようです。

 仮に、がんをゼロにすることが目指せるとして、それが究極の目標と言えるでしょうか。もし、遠隔転移を全部切除できたものの、手術の合併症で命を縮めてしまった場合、それでもがんをゼロにすることに価値があったと言えるでしょうか。

 やはり、私は、無理に「根治」を目指すよりも、「いい状態で長生き」を目指す方が自然な気がします。「根治」はなかなか達成できないものですので、治らなければ絶望と思い詰めてしまうのは、得策ではありません。がんがあること自体は受け止めた上で、「がんとうまく長くつきあう」と考えた方がよいように思います。

がんとうまく長くつきあい、「天寿」を全うする

 がんが悪さをしないようにうまく抑えながら、いい状態で長生きして、「天寿」を全うできるのであれば、それは、「がんが治った」というのと、ほとんど同じことのような気もします。

 「天寿」というのは、人それぞれ、いろいろな捉え方があるでしょうが、「その人なりの人生を生き切ること」と言い換えられるでしょうか。たとえ、がんで最期を迎えるとしても、天寿を全うしたと言える生き方はありえると、私は思います。

 がんとうまく長くつきあって、天寿を全うすることを目指す。そのために、医療があるのだと思っています。今は、薬物療法も緩和ケアも進歩していますので、進行がんでも、いい状態で長生きできる方が増えてきました。そういう患者さんの中には、CTでは病変が確認できないくらいになっている方も、遠隔転移とずっとうまくつきあっている方もおられますが、両者に本質的な違いはなく、どの患者さんも、自分らしく生きておられます。そういう意味でも、「治ったかどうか」にこだわる必要はないのだと思っています。(高野利実 がん研有明病院乳腺内科部長)

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 院長補佐・乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大附属病院や国立がんセンター中央病院などで経験を積んだ。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。08年、帝京大学医学部附属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に部長として赴任し、3つ目の「腫瘍内科」を立ち上げた。この間、様々ながんの診療や臨床研究に取り組むとともに、多くの腫瘍内科医を育成した。20年、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、21年には院長補佐となり、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)や、「気持ちがラクになる がんとの向き合い方」(ビジネス社)がある。

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