Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
医療・健康・介護のコラム
遠隔転移があると、がんは治らないのですか?
あけましておめでとうございます。
このコラムでは、読者から寄せられた質問や、私が患者さんから受けた質問に対して、回答しています。今回から数回にわたって、進行がんとの向き合い方に関する質問を取り上げたいと思います。
乳がん術後3年のCT検査で肺に転移が四つ見つかりました。担当医からは「治らない」と言われましたが、本当に望みはないのでしょうか?
乳がんの場合、乳房やその近くのリンパ節に病変がとどまっている「早期がん」の状態で見つかることが多く、手術や放射線治療などの「局所治療」と、抗がん剤やホルモン療法などの「全身治療(薬物療法)」を行って、「根治」を目指します。根治というのは、がんを体から完全に排除することです。
がんの種が全身に広がり、根付いたのが「遠隔転移」
根治を目指す治療を行ったあと、肺転移などの「遠隔転移」が見つかることがあります。これは、乳房にあったがん(原発巣)から、血流を介して、がん細胞という「種」が全身に広がり、原発巣とは別の場所に根付き、芽を生やしたものです。
再発しても、それが、手術した乳房や近くのリンパ節にとどまっていれば、「局所再発」となり、もう一度、根治を目指した治療を行いますが、一定の範囲を超えた「遠隔転移」が一つでもあれば、病気が全身に広がったということになり、根治を目指すのは難しくなります。がんが見つかったときにすでに遠隔転移もある「ステージ4」の場合も含め、遠隔転移がある状態を、「進行がん」と呼びます。
種は、最初に原発巣が見つかったとき、すでに全身に広がっていたと考えられます。その種が肺や肝臓や骨などに根付いて、芽を生やして、大きくなったところで、CT検査や症状などで発見されて、遠隔転移と診断されます。がん細胞が1億~10億個くらい集まって塊を作ったところで、CTで確認できる大きさになるのですが、遠隔転移があるということは、すでに、種が体中にまかれているということであり、CTでは確認できない小さい芽もたくさんあると考えられます。
がんをゼロにするのは困難で、薬物療法が中心に
遠隔転移を全部切除してほしい、と考える患者さんもおられますが、CTでは見つけられない種や芽が体中にあるので、仮に、CTで確認できる病変を全部切除できたとしても、がんをゼロにできるわけではなく、根治にはなりません。体の負担なども考えると、遠隔転移の手術は、基本的にお勧めできません。ただ、しこりのせいで痛みなどの症状を起こしている場合は、手術や放射線治療などの局所治療を行うことで、症状を和らげる効果が期待できますので、症状緩和という目的においては、局所治療も有用です。
遠隔転移がある場合、治療の中心は、薬物療法となります。ただ、薬物療法でも、根治は難しいというのが現実です。仮に、CTでは病変がわからなくなるくらいよく効いたとしても、がんがゼロになっているというわけではありません。
がんを体からゼロにすることを「治る」と言うのであれば、遠隔転移のある「進行がん」は、「治らない」ということになります。将来的に、それによって命も限られる可能性が高いので、この事実は、とても重いものです。
ただ、「治らない」としても、「望みがない」わけではありません。遠隔転移のある患者さんに対して、私は、「治らない」という事実を伝えた上で、次のように話を続けます。
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