文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

結婚直前に無精子症判明で破談 精子精密検査が開けるパンドラの箱

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
結婚直前に無精子症判明で破談 精子精密検査が開けるパンドラの箱

 「患者の知る権利と知らない権利」のお話をさせてください。

 「患者の知る権利」という考え方が絶対に正しいなら、がんは必ず告知し、予想される病気の進行についても、包み隠さず説明しなくてはなりません。

「患者の知らない権利」もある

 でも現実には、がんという病名や病状の説明は聞きたくないという患者も決して少なくありません。「患者の知る権利」は当然のことですが、「病気のことは知らないでいたい」と思うのも、また正当な権利なのです。

 がん患者は、告知のショックはもちろん、治療が始まると再発や転移、薬の副作用への不安、家族などのことを考え、悩みます。何より、これまで描いていた未来を失う衝撃は大きく、現状を受け入れるのに時間がかかりますが、告知を受け、その状態を受容していきます。話を精子に戻しましょう。

 不妊学級などで精子のお話をすると、ほとんどの方が「絶望的なことでも、すべてを知りたい」とお答えになり、「知りたくない」とおっしゃる方はほとんどいません。

精子の質が「不運」にも悪かったら

 精子研究者から見ると、精子形成は「数」が第一、「質」は二の次です。極論すると、1億匹の精子がいれば1億通りの異常があります。とりあえず受精して、遺伝子に問題がある胚は、流産によりどんどん脱落していきます。

 前回、どの精子と受精するかによって、二つの「運」があるとお話ししました。流産を乗り越えて出産までたどり着けるか、そして造精機能に問題がない男性として生まれることができるか、です。一般論ではなく、自分たちが「不運」の当事者となったら、どうしますか? 

 昨年の連載で、不妊治療における出口戦略のお話をしました。長年治療を続けられた夫婦に、精子精密検査の結果をもとに治療断念をお話しすると、ご夫婦は混乱しますが、心の底には「ああ、やっぱり」という気持ちがあります。

 「精子が先」の治療モデルへの理解が進むにつれ、不妊治療の入り口に立とうというご夫婦に、精子の「不運」をお話ししなくてはならないケースが出てきました。「なぜ私たちが」という思いとともに、心の準備がないだけに、ひどく混乱します。ご夫婦が精子の状態を理解した上で、どこまで不妊治療をするか、ご相談することになります。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

seishi-funin

精子から見た不妊治療

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

過去コラムはこちら

精子に隠された「不都合な真実」

精子から見た不妊治療の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事