精子から見た不妊治療
医療・健康・介護のコラム
結婚直前に無精子症判明で破談 精子精密検査が開けるパンドラの箱
「患者の知る権利と知らない権利」のお話をさせてください。
「患者の知る権利」という考え方が絶対に正しいなら、がんは必ず告知し、予想される病気の進行についても、包み隠さず説明しなくてはなりません。
「患者の知らない権利」もある
でも現実には、がんという病名や病状の説明は聞きたくないという患者も決して少なくありません。「患者の知る権利」は当然のことですが、「病気のことは知らないでいたい」と思うのも、また正当な権利なのです。
がん患者は、告知のショックはもちろん、治療が始まると再発や転移、薬の副作用への不安、家族などのことを考え、悩みます。何より、これまで描いていた未来を失う衝撃は大きく、現状を受け入れるのに時間がかかりますが、告知を受け、その状態を受容していきます。話を精子に戻しましょう。
不妊学級などで精子のお話をすると、ほとんどの方が「絶望的なことでも、すべてを知りたい」とお答えになり、「知りたくない」とおっしゃる方はほとんどいません。
精子の質が「不運」にも悪かったら
精子研究者から見ると、精子形成は「数」が第一、「質」は二の次です。極論すると、1億匹の精子がいれば1億通りの異常があります。とりあえず受精して、遺伝子に問題がある胚は、流産によりどんどん脱落していきます。
前回、どの精子と受精するかによって、二つの「運」があるとお話ししました。流産を乗り越えて出産までたどり着けるか、そして造精機能に問題がない男性として生まれることができるか、です。一般論ではなく、自分たちが「不運」の当事者となったら、どうしますか?
昨年の連載で、不妊治療における出口戦略のお話をしました。長年治療を続けられた夫婦に、精子精密検査の結果をもとに治療断念をお話しすると、ご夫婦は混乱しますが、心の底には「ああ、やっぱり」という気持ちがあります。
「精子が先」の治療モデルへの理解が進むにつれ、不妊治療の入り口に立とうというご夫婦に、精子の「不運」をお話ししなくてはならないケースが出てきました。「なぜ私たちが」という思いとともに、心の準備がないだけに、ひどく混乱します。ご夫婦が精子の状態を理解した上で、どこまで不妊治療をするか、ご相談することになります。
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