文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

がん同様に、精子の異常をステージ分類するというアイデア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

ステージ分類した精子の「5年生産率」を出す? 

 がんの進行程度を判定するための基準を「ステージ」といい、がんの大きさや、リンパ節や他臓器への転移を指標にして分類します。がん細胞の性質とステージを考慮して治療を行いますが、がん細胞の性質が悪いほど、そしてステージが進行するほど生存率が低下します。実際には、診断から5年経過後に生存している患者の割合(5年 生存率(せいぞんりつ) )で治療効果を判定します。

  前回の連載の中でお話しした6項目の精子精密検査 を議論している時、様々な精子の異常と、その程度が細かく検査できるようになるのだから、がんの5年生存率のように、精子の異常別にステージ分類して「5年 生産率(せいざんりつ) 」(5年の間に産科で赤ちゃんが生きて生まれる率)を出したらどうかという、おやじギャグが出ました。生産、つまり出産ですから、不妊治療を受けられる期間は約4年間あります。

 これまでは、顕微授精をした夫婦の何%が受精し、妊娠したという統計が多かったのですが、精子の異常とその程度は治療成績に大きく影響するわけで、おやじギャグなどではなく、ステージ分類した上で、5年生産率で治療効果を判定するという考え方はとても大切です。

重症の造精機能障害に「標準治療」は困難

 がんの治療には、がん細胞の性質やステージを考慮して、現時点で最良の治療法であることが科学的な根拠に基づいて証明された「標準治療」が決められています。関連学会が、治療法の選択や効果を評価するための約束事を、「 (がん) 取扱い規約」という本にまとめています。

 みなさんは、なぜ「最先端」の治療をしないのか、と思われるかもしれませんが、最先端には治療効果、安全性、ともに未知数な部分があるからです。がん研究者としては、顕微授精が男性不妊に対する最先端の治療であり、同時に標準治療になっていることに、ずっと違和感がありました。「造精機能障害の治療は、なんでワンパターンなのだろう」という素朴な疑問です。

 がん治療は、外科手術、分子標的薬を含む薬物療法、放射線療法、免疫療法などの最先端の研究が「標準治療」に仲間入りしつつあり、変革期を迎えています。その一方で、がん研究者の目から見て、造精機能障害の治療は停滞しているように見えます。こうすれば受精率が上がる、妊娠率が上がる、と様々な先端治療が紹介されますが、結局、標準治療にならないまま、しばらくすると話題にもならなくなります。

 現在の生殖補助医療では、軽症の夫婦は早期に妊娠します。重症の造精機能障害のご夫婦には厳しい言い方ですが、精子の「質」の問題への対処には限界があり、標準治療が確立する可能性は低いと思います。(東京歯科大学市川総合病院・精子研究チーム)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

seishi-funin

精子から見た不妊治療

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

過去コラムはこちら

精子に隠された「不都合な真実」

精子から見た不妊治療の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事