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精子から見た不妊治療

医療・健康・介護のコラム

がん同様に、精子の異常をステージ分類するというアイデア

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がん同様に、精子の異常をステージ分類するというアイデア

 研究チームの高松、萩生田、中川は、不妊治療とがん治療の二刀流です。チームでの議論で、「生殖補助医療にもっと、がん研究、治療の手法を取り入れるべきである」という話が出ます。今回は、がん研究者の視点から見た生殖補助医療のお話をさせてください。

がんも精子も細胞分裂が盛ん

 がんは体内の様々な臓器から発生します。当然、胃がんと子宮がんでは細胞の性質が大きく異なりますが、すべてのがんに共通しているのは、際限なく増殖し、命を脅かすことです。がん細胞を顕微鏡で観察すると、正常な細胞と形態が異なる場合が多く、臨床現場では「顔つき」と言い、悪性のがんほど顔つきが悪くなります。

 精巣もたくさんの精子を作っており、両者の共通点は細胞分裂が盛んなことです。造精機能障害では、精子の産生量が減ったり、がんが顔負けするほど精子の顔つきが悪くなったり、顔つきの良い精子にも「隠れ造精機能障害」が潜んでいたりします。

 がん細胞が際限なく増殖するのは、細胞の分裂を制御するスイッチ(遺伝子)が入りっぱなしか、入らなくなったからです。これまでの抗がん剤は、細胞の分裂を抑える薬であり、分裂が盛んながん細胞にダメージを与えますが、がん以外の細胞も巻き添えになり、強い副作用が出ます。

 その代表例が精巣であり、形成される精子数が減少したり、全くなくなったりしてしまいます。この対策としては、抗がん剤の投与前に精子を採取して凍結保存しておく、治療前精子凍結保存が行われます。

 近年、がん細胞の「顔つき」だけでなく、遺伝子検査で暴走に関わっている遺伝子を見つけ出し、その働きを止めたり、正常化したりする分子標的薬の開発が進んでいます。これまでに約140のがん化に関連する遺伝子が見つかっています。造精機能障害の背景にも「遺伝子の問題」があるので、精子の遺伝子検査をして治療ができないのか、と考えるのは自然です。

がんは増殖を止めるだけでいいが、精子は…

 ですが、がんは際限なく増殖すること以外は、普通の細胞とほぼ同じであり、遺伝子の変異で細胞増殖ができなくなった場合は、がんにはなりません。がんの治療はシンプルで、がん細胞の増殖を止めることができれば成功なのです(実際には、これが難しいのですが)。

 一方、精子の「遺伝子の問題」は新生突然変異です。ヒトのDNAには、2万個以上の遺伝子があると考えられています。精巣で精子が作られる過程で、あらゆる遺伝子に一定の確率で変異が起きるので、1匹ごとに異常な箇所が異なります。だから、卵子がどの精子と受精するかによって、2段階の運、不運があります。まず、 淘汰(とうた) や流産を乗り越えて出産までたどり着けるかどうか、そして、男児が生まれた場合に造精機能が正常であるかどうか、です。個々の精子の遺伝子変異を調べることは困難で、重症の造精機能障害の治療は、がん治療より難しいかもしれません。

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精子から見た不妊治療

兼子 智(かねこ・さとる)
東京理科大大学院、慶應大大学院修了。薬学博士、医学博士。東京歯科大市川総合病院産婦人科非常勤講師


黒田 優佳子(くろだ・ゆかこ)
慶應大医学部卒、同大学院修了。医学博士。「黒田インターナショナル メディカル リプロダクション」院長


萩生田 純(はぎゅうだ・じゅん)
慶應大医学部卒。博士(医学)。東京歯科大市川総合病院泌尿器科講師


中川 健(なかがわ・けん)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院副院長、泌尿器科部長、副リプロダクションセンター長


高松 潔(たかまつ・きよし)
慶應大医学部卒。医学博士。東京歯科大教授,同大市川総合病院産婦人科部長、リプロダクションセンター長

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