Dr.イワケンの「感染症のリアル」
医療・健康・介護のコラム
新型コロナのウイルス変異 英国はなぜ強力な対策を取ったのか
渡航制限 できうる限りの対策が必要
この変異株、すでに英国では北アイルランド以外の、イングランド、スコットランド、ウェールズで見つかっているようですが、ほとんどがロンドンとその周辺に集中しています。また、デンマーク、オーストラリア、オランダでもこの株がみつかったかも、という報告があります。南アフリカでも同様の変異株が見つかりましたが、英国のものとは別のもののようです。
このことは「渡航」という行為のリスクを改めて浮き彫りにしたとも言えます。
すでに世界中に広がっている「パンデミック」の状態で、今更人の行き来を制限してもしようがないじゃん、という意見もあるかもしれません。しかし、変異株が発生して「よりリスクの高いウイルス」が一部の地域に存在する場合、それを他の地域に広げない最大限の努力は、やはり必要になるのです。来年予定されているオリンピック、パラリンピックの開催も含め、渡航問題がさらに難しくなる可能性も我々は念頭に置く必要があります。
この変異株発生というウイルス学的な現象は、疫学調査による患者急増というデータと関連付けられ、数理モデルというシミュレーションによる影響の解析がなされ、さらにウイルス学的な確認作業に入っています。このような科学的営為の結果に基づき、暫定的な情報ながらも英国や周辺諸国は政治的判断を決行しました。
前回苦言を申し上げた、日本の「エビデンスがない」という軽薄なコトバでごまかす対応とは随分違うな、とぼくは感じるのですが、皆さんはいかがお考えでしょうか。
/article/20201126-OYTET50003/?catname=column_iwaken
参考 BBCのまとめ
https://www.bbc.com/news/health-55388846
(岩田健太郎 感染症内科医)
3 / 3
【関連記事】
個人や集団の個別判断の為の論拠の共有
寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受
昨年の終わりごろから新型コロナウイルスが表社会に出現して変異して、それがどこまで偶発でどこまで人為的かは不明ですが、改めて重要なのは今後も続く新...
昨年の終わりごろから新型コロナウイルスが表社会に出現して変異して、それがどこまで偶発でどこまで人為的かは不明ですが、改めて重要なのは今後も続く新型コロナと他の病原体や体内要因および社会要因の綱引きをしながら医療を存続させることと経済や政治外交その他を並列させることです。
UK=英国には英国の医療や政治の事情もあるので、それは一つの参考ですが、その結論の政策のみならず、岩田先生がお示しになられたような論拠というものは大事なのではないかと思います。
エビデンスは切り取られた条件付きの情報を人間が解釈したものに過ぎず、しばしば暴走する事実も含めて、数年前のディオバン事件の反省を日本は前向きに生かすべきだと思います。
エビデンス以外の情報や願望に沿わない結果も受け入れて再考する必要があります。
空気中でも最低3日間も生きると言われるウイルスが風に飛んで拡散しないわけもないですが、バリバリの密集地域や防護なしでの危険区域の滞在を減らすことは大事だと思います。
同じく人の心は風任せですが、いくつかの論拠があれば、行きすぎや想定外の事態が発生した時の抑止力にはなります。
変異種の毒性が同程度なら、今は程々に密集を避けて、家や職場の近所で個人や少人数で飲食する程度は認めないと、禁酒法時代よろしくかえってアングラ化しますし、生活も精神も持たないでしょう。
人間は正しい事だけを続けられる生き物ではありません。
コロナがさらに悪性に変異したり、他の病原や社会問題が発生した時の余力を残しておくことは集団心理の問題として大事だと思います(今の時点での完全ロックダウンは個人的に反対です)。
また、看護師や医師の退職のニュースもありますが、制度や施設に設備の再編成も必要でしょう。
誰にとっても最善の判断など存在しませんが、論拠まで共有することで、個人や集団にベターな判断の幅を持たせることができます。
つづきを読む
違反報告