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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナのウイルス変異 英国はなぜ強力な対策を取ったのか

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「遺伝子の突然変異=キャラの激変」ではない

新型コロナのウイルス変異 英国はなぜ強力な対策を取ったのか

 英国でSARS-CoV-2の変異株が見つかり、これが大問題になっています。いったい、どういうことでしょうか。まだよく分からないことが多いこの問題、執筆時点で「分かっていること」をご説明します。

 生物には遺伝子があります。ウイルスを「生き物」と捉えるかどうかには議論がありますが、ここでは便宜的に「ウイルスは生きている」と考えます。で、他の生物同様、ウイルスの中にも遺伝子があります。新型コロナウイルスと呼ばれているSARS-CoV-2も例外ではありません。

 他の生物もそうなのですが、ウイルスの遺伝子は頻繁に突然変異を起こしています。遺伝子は核酸からできていますが、その核酸が別のものに置き換えられたり、なくなったりするのです。よって、遺伝子の生産物であるたんぱく質に変化が生じることがあります。

 しかし、遺伝子の突然変異は、必ずしもウイルスのキャラを激変させるものではありません。遺伝子の変化とウイルスのキャラ、我々目線で言うならば、病気の性格にはギャップがあるのです。

 人類史上、たくさんの感染症が記録されていますが、遺伝子の突然変異で病気のキャラが激変したことはほとんどありません。数十年に1回、インフルエンザウイルスの遺伝子の変化が抗原の変化(シフト)をもたらし、大流行の原因にはなります。1918年のスペイン風邪などがその一例です。が、これとてめったに起きることではありませんし、病気のキャラと言うよりは、人間の免疫機構をすり抜けるために大流行するのです。

感染の速度が速まったのは変異のせい?

 さて、そこで新型コロナです。

 現在、英国のロンドンやその周辺で感染が非常に速いスピードで広がっています。で、そこで見つかったSARS-CoV-2にはいくつかの新しい突然変異がありました。そのため、その「速いスピード」の原因が、この突然変異なのではないか、という疑惑が持たれているのです。

 先に述べたように、ウイルスの遺伝子の変化は、即、ウイルスのキャラの変化をもたらすことはめったにないのですが、「めったにないことは、起きないことを意味しない」のもまた事実です。まれなことは、まれには起きる(かもしれない)のです。

 B.1.1.7と呼ばれるこの変異株、17個の重要かもしれない遺伝子変異が見つかりました。特に、N501Yというアミノ酸の変化をもたらす変異と、H69/V70というアミノ酸の除去がウイルス表面のスパイク・たんぱく質で起きており、これが細胞への感染しやすさをもたらした可能性があるのです。ちなみにアミノ酸というのは遺伝子が作るたんぱく質の材料のことです。

https://virological.org/t/preliminary-genomic-characterisation-of-an-emergent-sars-cov-2-lineage-in-the-uk-defined-by-a-novel-set-of-spike-mutations/563

 実験室レベルでは、H69/V70欠損というスパイク・たんぱく質の変化で、ウイルスの感染性が2倍になったそうです。もっとも、ウイルスの毒性、例えば死亡しやすさなどには変化がなく、現行のワクチンが効かなくなったりはしていないようなのですが(現段階の情報によると、ですが)。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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1件 のコメント

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個人や集団の個別判断の為の論拠の共有

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

昨年の終わりごろから新型コロナウイルスが表社会に出現して変異して、それがどこまで偶発でどこまで人為的かは不明ですが、改めて重要なのは今後も続く新...

昨年の終わりごろから新型コロナウイルスが表社会に出現して変異して、それがどこまで偶発でどこまで人為的かは不明ですが、改めて重要なのは今後も続く新型コロナと他の病原体や体内要因および社会要因の綱引きをしながら医療を存続させることと経済や政治外交その他を並列させることです。
UK=英国には英国の医療や政治の事情もあるので、それは一つの参考ですが、その結論の政策のみならず、岩田先生がお示しになられたような論拠というものは大事なのではないかと思います。
エビデンスは切り取られた条件付きの情報を人間が解釈したものに過ぎず、しばしば暴走する事実も含めて、数年前のディオバン事件の反省を日本は前向きに生かすべきだと思います。
エビデンス以外の情報や願望に沿わない結果も受け入れて再考する必要があります。

空気中でも最低3日間も生きると言われるウイルスが風に飛んで拡散しないわけもないですが、バリバリの密集地域や防護なしでの危険区域の滞在を減らすことは大事だと思います。
同じく人の心は風任せですが、いくつかの論拠があれば、行きすぎや想定外の事態が発生した時の抑止力にはなります。
変異種の毒性が同程度なら、今は程々に密集を避けて、家や職場の近所で個人や少人数で飲食する程度は認めないと、禁酒法時代よろしくかえってアングラ化しますし、生活も精神も持たないでしょう。
人間は正しい事だけを続けられる生き物ではありません。
コロナがさらに悪性に変異したり、他の病原や社会問題が発生した時の余力を残しておくことは集団心理の問題として大事だと思います(今の時点での完全ロックダウンは個人的に反対です)。
また、看護師や医師の退職のニュースもありますが、制度や施設に設備の再編成も必要でしょう。
誰にとっても最善の判断など存在しませんが、論拠まで共有することで、個人や集団にベターな判断の幅を持たせることができます。

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