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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

眼科にはない?「中枢性感作」という考え方…感覚過敏症状を解明する突破口に

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 眼科にはない?「中枢性感作」という考え方…感覚過敏症状を解明する突破口に

 目や視覚の症状と深い関係があるのに、大半の眼科医の念頭にはない「中枢性 感作(かんさ) 」という概念とはいったいどういうものでしょう。

 これは、脳や脊髄などの中枢神経系において感覚過敏を誘発する神経信号の増大と定義されます。つまり、体の各部位からの感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触圧覚、温痛覚など)は伝導路を経て大脳に達しますが、その間に感覚増大などが生じてしまうことを指しています。

 例えば微小な痛みが反復していくと、やがて強い痛みとして感じ、慢性化する現象がその代表的なものです。

 人間には大脳から発する 疼痛(とうつう) 抑制線維と呼ばれるものが備わっています。痛みに際して、その末端から麻薬様の物質を出すことで、体の各部位の疼痛を自力で低減する仕組みがありますが、何らかの都合でこの機能が低下すると持続的な耐え難い痛みになります。

 眼科に来院される患者の中に、眼球には相当する病気がなく、原因不明の目の痛みや、耐え難いまぶしさが持続し、日々の生活への影響が甚大だというケースが時々みられます。

 これは、非眼球性の視覚障害といえましょう。

 こうした症例に出会った経験のある、筆者を含む神経眼科やロービジョン(低視力)の専門家9人が、これに該当する33症例を持ちより考察を加えた論文が、間もなく日本神経眼科学会誌「神経眼科」に掲載されます。対象になった症例は16歳から80歳に及び、男女比は9:24でした。最も多かった症状は、高度のまぶしさで26例、眼部の慢性疼痛が5例ありました。

 神経系薬物の影響、頭部外傷、片頭痛などが背景にある場合が一部の方にありました。

 我々は共通するメカニズムとして視覚情報を処理する過程で起きる脳内の信号伝達異常を考え、その説明に「中枢性感作」の考え方を応用すると理解しやすいと、その論文で考察しました。

 中枢性感作は一つの仮説で、たとえば通常の脳の磁気共鳴画像(MRI)検査では異常が見つかりません。つまり脳内の信号伝達に異常が生じている可能性は高いが、脳の形をみるだけの画像診断ではそこまでは検知されないのです。

 さて、こうした脳のメカニズムを認識していない眼科医は、実際どうしているのでしょう。

 わからないまま、光の刺激を低下させるために遮光レンズを処方して、様子をみる医師もいるでしょう。ドライアイの性質は多数の方々が持っていますから、そのせいにして目薬を処方する医師もしばしばみかけます。また、前回触れたように、まぶしさを白内障のせいと即断して、手術を勧める医師もいるかもしれません。

 一方、これらの患者が神経内科、精神科などを受診したとしても、おそらく正しい診断に行きつきにくいのではないでしょうか。目の問題は眼科だと思うからです。

 医学の進歩はめざましいものですが、まだまだ謎は多く、わからないまま不正確な対応がなされる場合もあるというのが現実です。

 少しずつわかりかけてきた「中枢性感作」は、従来よくわからなかった視覚を含む感覚過敏症状解明の突破口になるかもしれません。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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