大橋博樹「かかりつけ医のお仕事~家族を診る専門医~」
医療・健康・介護のコラム
医学部では、風邪や包丁で指を切った時の治療法は学ばない!?
赤ちゃんからお年寄り、育児相談から血圧治療、外科まで1人で
ミシガン大学には「日本家庭健康プログラム」という現地に駐在する日本人向けの日本語での医療サービスがあり、そこでは米国の家庭医が診療や教育、研究を実践しているというものでした。ミシガン大学の佐野潔助教授(当時)を訪ねると、それは衝撃的なものでした。
赤ちゃんからお年寄りまで、内科・外科問わず全ての健康問題について、ほぼ1人で対応されていたのです。しかも、家族一緒に同じ診察室で受診することができます。
おばあさんの血圧の相談をした後に、お孫さんの発育の相談と予防接種を行う。そして、 四方山 話で盛り上がる。先端医療で有名な米国の大学病院で、このような光景を見るとは思いませんでしたし、その診療はまさに祖父が行っていた「町医者」そのものでした。佐野先生の後ろには、家庭医を目指す若い医師が張り付き、一挙手一投足を逃さず見つめていました。町医者になるための教育も、そこにはしっかりと存在したのです。
日本には町医者の研修システムがなかった……だからレベルが?
米国滞在中、私は町医者になりたいこと、日本では町医者の研修システムが存在しないことなどを話し、佐野先生に相談しました。佐野先生からは、このような家庭医の行う医療は「プライマリーケア」と呼ばれ、よくある病気・よくある問題に対応し、そして予防も重視するということ、また、日本ではまだプライマリーケアの重要性が認識されていないため、そのような教育が根付いていない、だから町医者の医療レベルは低いと市民から認識されてしまう、という問題点も教わりました。

なんとか、自分も家庭医としてスキルを身に付け、そして高いレベルのプライマリーケアを提供する町医者になりたいという思いで、その後、 研鑽 し、2010年に多摩ファミリークリニックを開業しました。そこではどんな医療が展開されているか、これから少しずつご紹介したいと思います。(大橋博樹・医師)
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機械の進歩、技術の進歩に人間の頭や常識はなかなかついていかないものです。 僕は新研修医制度初期の世代ですが、その時の指導医は旧制度バリバリで、今...
機械の進歩、技術の進歩に人間の頭や常識はなかなかついていかないものです。
僕は新研修医制度初期の世代ですが、その時の指導医は旧制度バリバリで、今や還暦を迎えているであろう、その友達や同級生の町医者は、それまでの経験でなんとなく転職できた、という認識があったのではないかと思います(その認識が正しいかどうかは別として)。
そして、今以上に、人材が大学の医局人事の配下にあり、CTやMRIなど、大学と一般病院やクリニックの機械の格差も資本格差に比例して大きかったのではないかと思います。
指の切り傷、その最大級の切断指は、大学によっては形成外科も生まれていましたが、15年前の当時はまだ存在しない大学もありました。
内科、外科から各診療科に細分化されていった昭和、平成の時代がありました。
風邪はむしろ除外診断の方が大事、という認識も今ほどは情報共有がなされていなかった時代だと思います。
赤チン塗って傷口を乾かすのが常識だった時代も変わりました。
そして、何よりも、ある程度の標準医療どころか最先端の考えや基準が一般人にも共有される時代になりました。
今や、論文や教科書も半分すっ飛ばしながら、各学会がSNSで直接一般大衆に語り掛け始める時代です。
地域によっても、個人や組織によっても、1-3次レベルの患者をどのタイミングでどう触って受け渡していくのかは課題ですが、家庭医の今までだけでなく、これからどうなるのかまで語ってほしいとは思います。
欧州ビッグクラブの元サッカー監督が、全てをGM兼監督が取り仕切ることはなくなったとの時代の変化を書いていました。
おそらく、先生が経験して身に着けてきた家庭医のコアを、新しい先生方は違う背景とシステムで身に着けていくのではないかと思います。
放射線科で研修を受けた家庭医はおそらく患者の問診や聴打診からいくつかの画像をイメージして、診断或いは後送の判断をするでしょう。
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