夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか
医療・健康・介護のコラム
夫を看取りたいか、夫に看取られたいか…臓器移植で夫婦の寿命を「帳尻合わせ」した私たち
医学の歴史で「極めて特殊」な?私たち
臓器移植医療が始まったのは、比較的最近のことだ。世界で初めて成功した臓器移植は、1954年、米国の外科医で後のノーベル賞受賞者でもあるジョセフ・マレー氏が人の腎臓の移植に成功した例にさかのぼる。肝臓移植では、63年、米国の医師トーマス・スターツル氏が、世界で初めて成功している。私がお世話になっている東京女子医科大学病院では、71年に初めて生体間による腎臓移植手術が行われ、現在は日本トップクラスの腎移植件数を誇っている。
医療は日進月歩。明治の医学者、野口英世が現代の移植医療の実情を知れば、「医療はこうも進歩したのか」と驚くかもしれないし、未来の医師なら、「わざわざ人の臓器を移植した時代があったのか。人工腎臓など簡単に作れるのに」と、やっぱり驚くのかもしれない。
そう考えると、今、私のおなかの中に夫の腎臓があることは、過去から未来へと続く医学の歴史のなかでは、「極めて特殊なこと」となっていくのかもしれない。
生体腎移植を卒論のテーマに…という学生さん
先日、「卒業論文のテーマを、生体腎移植にすると決めました。お話、うかがえませんか」という依頼があった。
メールの送り主は、福祉系の大学に通っているという大学生。このコラムや、旦那さんに腎臓を提供されたドナーさんと一緒に週1で更新しているYouTubeチャンネルを見て、論文のテーマに定めたのだそうだ。未来ある人に移植医療について研究してもらえるのは、大変貴重なことだと思った私は、二つ返事で引き受けた。
しかし、成人したばかりの学生さんは、生体腎移植をどう捉え、どう切り取るのだろうか。あくまで医療の話がメインで、「寿命の帳尻合わせ」などの話をする機会はやってこないのかもしれない。そんなことをあれこれ考えていたら、すっかり日が暮れてしまった。そろそろ夫の安否確認をして、うちに帰ろう。(もろずみはるか 医療コラムニスト)
監修 東京女子医科大学病院・石田英樹教授
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