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夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか

医療・健康・介護のコラム

夫を看取りたいか、夫に看取られたいか…臓器移植で夫婦の寿命を「帳尻合わせ」した私たち

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 夫婦の距離感は、夫婦によってさまざまだ。一緒にいるのが自然な夫婦もあれば、週末婚のように、つかず離れずの距離感が快適な夫婦もある。私たち夫婦は前者で、どんな時も一緒にいると安心するから、仕事が終われば寄り道せず帰宅するし、どちらかの帰りが遅く連絡がないときは、iPhoneの「探す」アプリを起動させる。「探す」とは、GPSを使ってiPhoneの現在地を追跡できるアプリだ。紛失・盗難時に役立つのだが、私たちは互いの安否確認のために活用している。

伴侶との死別は人生最大のストレス?

夫を看取りたいか、夫に看取られたいか…臓器移植で夫婦の寿命の「帳尻合わせ」をした私たち

 そんな私たちは、死ぬまで一緒にいるために、夫婦間腎移植という治療法を選択した。

 末期腎不全だった私の寿命は、健康体の夫より、おそらく長くはなかっただろう。その差は5年? 10年? 20年?…… 「僕は腎臓をはるかさんに提供することで、夫婦の寿命の“帳尻”を合わせようとしたんだよ」と、術後に夫が話してくれたことがあった。

 「伴侶との死別は、人生最大のストレスである」という話を聞いたのは、先月のことだ。今年の夏に伴侶を亡くされたという方にインタビューをしていて、そんな話になった。その方によると、医師や心理学者がそう提唱しているのだそうで、現在、自身が身をもって検証中なのだという。

 そこで、5年前に伴侶を亡くした私の父を観察したのだが、さほどストレスを感じていないようだった。ほぼ毎日、弓道場に通い、友人と汗を流しているし、ご近所さんや元同僚、学生時代の友人とゴルフを楽しんでいる。健康面も、今のところ心配なさそうだ。

 しかし、そんな父の様子が変わるのは、自宅で食事をするときだ。母の遺影をテーブルの上に置き、「いただきます」と「ごちそうさま」は、天国の母に向けられる。子の私にも見せない思いがあるのだろうと、ふと父を遠くに感じる瞬間だ。

「夫婦が同タイミングで」なんて…

 今年、40歳になった同級生と、死について話をする機会が増えた。「もう若くないね」という話から始まり、「いつまで働けるのか」「いつまで元気でいられるのか」。そうした話は自虐に近い笑い話で終わることが多いが、「いつまで伴侶と一緒にいられるのか」という文脈になると、少ししめっぽくなる。

 女心としては、必ずしも、夫に 看取(みと) ってもらいたいわけでもない。残された夫の暮らしは心配だ。かといって、進んで夫を看取りたいわけでもない。「夫に先立たれて、まともに生きていく自信がないよ。許されるなら、夫婦が同タイミングで生涯を全うしたいよね」という非現実的な話でたいていは落ち着く。

 お互いの距離感が近かろうが遠かろうが、「夫婦でピンピンコロリ」を理想とする夫婦は一定数いそうだし、それを (かな) えるため、食事に気をつけたり、適度な運動を心がけたりする。だけど、私たちのように、臓器という「いのち」を夫婦で共有し、互いの寿命の帳尻合わせをしようという発想は、移植医療が始まる前の人類にはなかったことだろう。

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もろずみ・はるか

医療コラムニスト
 1980年、福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年に独立。ブックライターとしても活動し、編集協力した書籍に『成約率98%の秘訣』(かんき出版)、『バカ力』(ポプラ社)など。中学1年生の時に慢性腎臓病を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。

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