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Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」

医療・健康・介護のコラム

乳がんと診断されました。BRCA遺伝子の検査を受けた方がいいのでしょうか?

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イラスト:さかいゆは

イラスト:さかいゆは

乳がんの5~10%は「遺伝性」

 日本では、年間約9万人が乳がんと診断されていますが、そのうちの5~10%は「遺伝性」であると考えられています。がんの発症には、遺伝的な要因や環境的な要因が複雑に関係していますが、生まれ持った遺伝子が主な原因となってがんになる場合を「遺伝性」と呼びます。

 遺伝性乳がんの原因となる遺伝子で、最もよく知られているのは、BRCA(BRCA1とBRCA2)遺伝子です。BRCAに、「病的バリアント」と呼ばれる変化があると、乳がんと卵巣がんにかかりやすく、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれます。乳がんのうち3~5%、卵巣がんのうち10~15%がHBOCです。

 BRCA遺伝子の変化があると、乳がん、卵巣がんだけでなく、前立腺がんやすいがんなどの原因となることもあるとされています。

 日本人女性が生涯で乳がんにかかる確率は10.6%ですが、BRCA遺伝子の変化があると、この確率が38~87%に上がります。日本人女性が生涯で卵巣がんにかかる確率は1.3%ですが、BRCA1の変化があると39~63%、BRCA2の変化があると16.5~27%になります。

BRCA遺伝子の変化がわかったらどうする?

 もし、BRCA遺伝子の変化があるとわかったら、どうするのがよいでしょうか? 高い確率で、乳がんや卵巣がんを発症するわけですので、対策としては、次の二つが考えられます。

① 発症を予防する

② がんを早期の段階で見つけられるように注意深く検診を行う

 ①としては、がんが発生しやすい部分を予防的に切除する方法があります。乳がんを予防するために乳房を切除し、卵巣がんを予防するために、卵巣や卵管を切除します。米国女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、BRCA遺伝子の変化があることを公表し、左右の乳房と左右の卵巣,・卵管を予防的に切除したことで、この「予防的切除」は注目を集めました。ほかに、ホルモン療法などの薬物療法で発症を予防する試みもなされています。(現時点では保険診療としては使えません)。

 ②としては、乳房MRIや卵巣の検査などを定期的に行い、がんが見つかればすぐに治療を行います。ただし、卵巣がんでは早期発見の方法が確立しているとは言えず、どのような形で検査を行うのが適切なのかはわかっていません。

予防的切除やBRCA遺伝子検査が保険適用に

 乳がんや卵巣がんと診断されたことがあって、BRCA遺伝子の変化があるとわかった場合は、がんが見つかっていない乳房や卵巣・卵管の予防的切除が保険適用となっています。乳房予防的切除後の乳房再建術も保険適用です。

 これらが保険適用となったのは、2020年4月のことで、病気の「治療」ではなく「予防」が保険適用となるのは画期的なことでした。それ以前は、BRCA遺伝子の変化があったとしても、予防的切除は自費で受けなければならず、手術を実施できる施設も限られていましたが、今はだいぶ手術を受けやすくなったと言えます。

 これと同時に、卵巣がんと診断されたことのある方全員と、乳がんと診断されたことのある方のうち、下記に該当する方について、BRCA遺伝子検査も保険適用となりました。

●45歳以下で乳がんと診断された方

●60歳以下でトリプルネガティブ(ホルモン受容体とHER2が陰性)の乳がんと診断された方

●2個以上の乳がんを発症している方

●第3度近親者内(曽祖母やいとこまでの親戚)に乳がんまたは卵巣がんを発症した方がいる方

●男性乳がんの方

 がん研有明病院で乳がんの手術を受けた患者さんのうち、55%が、上記のいずれかに該当していましたので、対象者はかなりの数になります。

 もし自分がこれに該当するという場合は、希望すれば、保険適用で検査を受けることができますので、受診時に担当医と相談してみてください。

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高野 利実 (たかの・としみ)

 がん研有明病院 乳腺内科部長
 1972年東京生まれ。98年、東京大学医学部卒業。腫瘍内科医を志し、同大付属病院で研修後、2000年より東京共済病院呼吸器科医員、02年より国立がんセンター中央病院内科レジデントとして経験を積んだ。05年に東京共済病院に戻り、「腫瘍内科」を開設。08年、帝京大学医学部付属病院腫瘍内科開設に伴い講師として赴任。10年、虎の門病院臨床腫瘍科に最年少部長として赴任し、「日本一の腫瘍内科」を目標に掲げた。10年間の虎の門時代は、様々ながんの薬物療法と緩和ケアを行い、幅広く臨床研究に取り組むとともに、多くの若手腫瘍内科医を育成した。20年には、がん研有明病院に乳腺内科部長として赴任し、新たなチャレンジを続けている。西日本がん研究機構(WJOG)乳腺委員長も務め、乳がんに関する全国規模の臨床試験や医師主導治験に取り組んでいる。著書に、かつてのヨミドクターの連載「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~」をまとめた、「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う『HBM』のすすめ―」(きずな出版)がある。

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