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がんのサポーティブケア

医療・健康・介護のコラム

がん闘病を支える支持医療 栄養、痛み、副作用、心のケア がん医療の車の両輪として

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田村和夫・日本がんサポーティブケア学会前理事長に聞く

田村和夫・日本がんサポーティブケア学会前理事長に聞く

  がん医療は、遺伝子レベルの研究に基づく患者一人ひとりに応じた治療の選択から、ロボットや人工知能(AI)を活用した高度な手術まで、進歩は目まぐるしいものがあります。その一方で、患者の闘病を支えるために欠かせないのが、がんが及ぼす体や心への影響や治療の副作用などをケアする「がんのサポーティブケア(支持医療)」です。初回は、2015年に設立された「日本がんサポーティブケア学会」の田村和夫前理事長(福岡大学名誉教授)に、がんの支持医療とは何かについて伺いました。(聞き手・田村良彦)

がんと診断された時から始まる

 ――がんのサポーティブケアとは何ですか?

 がんを標的とした治療には、手術や放射線、薬物療法などがあります。最近は、免疫チェックポイント阻害剤を中心とした免疫療法や、CAR-Tのような細胞療法も進歩してきました。

 がん治療は、がんを抑え込む治療とサポーティブケア(支持医療)が車の両輪のように機能することによって、安全で効果的な成果が得られます。がんそのものや、治療に伴って生じる体や心の障害や痛みをサポートする。早期発見・早期治療はもちろん、それらを予防する段階から関わります。

――支持医療と緩和医療とはどう違うのですか。

 患者さんを支えるケアはがんと診断された時から必要になりますが、緩和医療、緩和ケアというと、一般の方は、末期における痛みであるとか、がんの終末期のケアをイメージする人が多いのではないでしょうか。言葉のイメージはとても重要で、早期からの幅広いケアを指すうえでは「サポーティブケア」(支持医療)がふさわしいのではないかとの考えから、こう呼んでいます。

 がんは発生した後、しだいに症状が出るほど腫瘍が大きくなっていきます。治療が効いて治癒(ちゆ)が得られれば良いですが、後遺症が残ることもあります。一方、すでに治せない段階で診断がついたり、あるいは治療後に再発したりすると、治すことは困難で、やがて体が弱り死に至ります。こういった一連のイベントの流れをがんの軌跡(Cancer Trajectory)と言います。

 そのなかで、がん治療を積極的にやる時期には、治療を完遂するために支持医療が積極的に必要とされ、やがてがん治療が困難となると症状緩和が中心の緩和医療に移ります。これらは連続したものであり、分けることはできません。合わせて「支持・緩和医療」と言えば、一番良いのかもしれません。我々が連携している国際がんサポーティブケア学会(MASCC)や欧州臨床腫瘍学会(ESMO)も、学術集会では支持・緩和医療というカテゴリーで取り扱っています。

――具体的にはどんな治療のことですか。

 たとえば私の専門の血液がんを例に挙げると、急性骨髄性白血病の寛解導入療法では、通常の3倍から10倍ぐらいの量の抗がん剤を使います。このため、治療を完遂するうえでも副作用に対するケアは非常に重要です。

 悪心や嘔吐(おうと)を防ぐための薬物療法、栄養や水分を補うための輸液、口内炎に対する予防も含めた処置も必要です。白血病では血小板や白血球、赤血球が減ってしまいます。血小板や赤血球の減少には輸血が欠かせませんし、白血球が減ると発熱、感染症のリスクが高まることから抗菌薬で感染症を防ぎます。さらに、精神的なケアも重要です。これらのサポーティブケアなしでは、がん治療は成り立ちません。

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がんのサポーティブケア

 がんやがん治療に伴う副作用が及ぼす痛みやつらさを和らげ、がんと闘う患者を支えるのが「がんのサポーティブケア(支持医療)」です。手術や放射線、薬物療法をはじめとする、がんを治すための医療と車の両輪の関係にあります。この連載では、がんに伴う痩せの悩みや、治療に伴う副作用、痛みや心のケアなど、がんのサポーティブケアが関わるテーマについて月替わりで専門家にインタビューし、研究の最前線や患者・家族らへのアドバイスについて伺います。

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1件 のコメント

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今までの医療界の評価が見落としてきたもの

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

支持医療という表現は初耳でしたが、治療の合併症やがんの進行に伴う心身の症状のケアという理解で落ち着きました。 客観的評価という名の分かりやすい数...

支持医療という表現は初耳でしたが、治療の合併症やがんの進行に伴う心身の症状のケアという理解で落ち着きました。
客観的評価という名の分かりやすい数値基準で医療者の政治経済が動いてきて、本来目を向けるべき患者サイドの目線がおざなりになってきたことがわかります。
医者の評価の対象になる、目に見える数(症例数、論文数、病院によっては個人や部門の売り上げ)に追われて何か大事なものを見失っていた部分を医療者は認めるべきでしょう。
患者サイドの目線との調整というのは、何が何でも患者さんの理解や満足に合わせるという意味ではなく、間にある理解や感情のギャップを取り持つという意味でもあります。
そういう意味で、患者さんを支持するという表現はうまいもので、良い車にはエンジンだけでなく、ハンドルやブレーキ、エアバッグ、内装やデザインなどいくつもの支持機構が必要なのに似ています。
緩和医療にも、がんの減量手術など病変に積極的介入する緩和と、終末期を支える、病変には非積極的だが患者には積極的なものがあります。
そのへんの、言葉やイメージのハマりどころを整理することは、関係無いようで重要になるのかもしれません。
既存の診療報酬体系の中で評価されないからこそ、埋もれてきた分野であって、集団や社会の認知も含めて仕組み作りも大事になるからです。

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