文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

新型コロナの「医療危機」の陰に隠された真実とは 森田洋之さんに聞く

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

満床を目指して「集患」に力を注ぐ病院 ライバル関係の競争の果てに

 ――病床の機動的な運用ができないのは、なぜでしょうか。

 欧州の国々と比べると、日本は民間病院が多いことも一つの理由ではありますが、それだけではありません。確かに、国や自治体からの指揮命令が届きやすい公立病院の方が病床などを機動的に、迅速に動かせる利点は大きいでしょう。ただ、アメリカは民間病院が多いですけど、それでも新型コロナ患者を受け入れる病床を増やしたり減らしたりはしているので。民間病院が多くても、やりようによってはできるはずです。日本の場合、中小の民間病院が乱立していて、病院同士でライバル意識が非常に強い。アメリカの大規模病院でしたら、自分の病院の中でコロナ対応病床を増やしたり減らしたりということもできるでしょうが、50床、100床規模の日本の民間病院では、それも難しい。民間だからというよりは、ライバル関係にある中小病院が乱立しているという問題の方が大きいと思います。

――病院が患者を集めに力を注ぐことを、「集客」ならぬ「集患」と呼ぶそうですね。

 病院が「集患」に努めて満床を目指すというのは、医療業界では当たり前のことです。どこの病院も満床を目指さないと経営的に厳しいわけですから。そうなると何かこういった感染症の流行が起きたときに、機動的な対応が難しくなるんです。ふだんから、ベッドがいっぱいで救急患者を受け入れられないといったことが問題になるわけですから。今回のような感染症が大発生しているときの対応は、基本的に難しいということになります。

 今回のコロナについて、欧米の各国でどうやって病床確保しているかというと、待機的な手術を一時延期するなどして病床を確保しているわけです。待機手術を延期するというのは、期間限定だからいいのであって、感染拡大の状況をみながら元に戻していくという臨機応変の対応が必要です。これが「縦の機動性」です。コロナ患者を受け入れる病床を臨機応変に増やしたり減らしたりする。

 もう一つの「横の機動性」は、地域内での医療資源を配分できるような機動性ですね。スタッフの問題も含めた。ただ、各病院の内部でということになると日本の病院は中小病院が多いので厳しいと思います。

 

夕張で知った「寄り添う医療」の大切さ

 ――医療崩壊が起きた夕張市での診療経験が、その後の医療に対する考え方の根本にあるとのお話ですが。

 夕張市では、一つしかなかった総合病院が市の財政破綻でなくなりました。171床あった病院から19床の有床診療所になったので、普通に考えると相当な医療資源の削減ということになると思います。市民の方は相当困ったのではないかと最初は思われたんですけど、実際に行ってみると、元々の医療資源がちょっと過剰ではなかったかということだったんですね。

 人口1万人ぐらいの小さな自治体に必要な医療って、もちろん急性期医療も必要なんですけど、1万人の自治体のすべてに病院を配置しなければならないかというと、そんなことはできるわけありません。たとえ配置したとしても、本当の急性期医療はなかなかできないんです。大きな病院でないと、交通事故や心筋梗塞(こうそく)の救急治療などの全てに対応できるわけではありませんので。小規模の病院があったからといって、本当の救急はできなかった部分があります。

 そこで、救急医療は札幌市にお願いして、当時の院長だった村上智彦先生を中心として、いわゆるプライマリーケアに専念しました。子どもからお年寄りまで、終末期のケアや看取(みと)りまで幅広く診る医療を担うことに取り組みました。そうやって市民に寄り添って、しっかりした対応をしていたら、救急車の年間出動件数が半分に減りました。病院がなくなったけど死亡率は変わらなかった。医療費も減りました。

――何が一番変わったのでしょうか。

 いろんなデータの変化がありましたが、医療について一言で言い表すならば、住民の生活や思いに寄り添える医療に変わったということです。数字だけ見れば病床数が171から19になったわけですけど、「医療崩壊」と言われたもともとの医療というものが、住民にとって本当に必要な医療だったのか、医療者側が必要だと思い込んでいた医療ではなかったのかということです。

 たとえば、食べられなくなったら胃ろうをつくるとか、中心静脈栄養などの管をつなぐような医療がいっぱいありますが、本当にそれをみんな望んでいるのかというと、意外とみんな望んでいないことが多かったんです。世間的には医療崩壊と言われていたのですが、あまり不幸なものではなかったという経験をしました。

 死因も「老衰」で亡くなる人が増えました。救急で初めて診る患者であれば、なかなか老衰という診断はできないでしょうけど、ふだんから寄り添って信頼関係ができていると、これは老衰であると言えるし、結果として救急車を呼ぶことも減りました。

 今回の「医療崩壊」も、実際のところはどうなのかと、基本的には疑いの目で見ているというか、そのままには受け取れないものがあります。人口が200万人を超える名古屋市で、わずか180床しか実際に使えるコロナ対応病床がなかったと報じられましたが、それで病床不足と言われても、行政がきちんと仕事をしていなかっただけではないでしょうか。

2 / 3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

tamura-yoshihiko_profile

田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

田村専門委員の「まるごと医療」の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

既出課題を可視化或いは増大させた新コロナ

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

地域医療崩壊の記事はずいぶん前からありました。 そして、新型コロナ以降よりのルールや負担の増大も含めてクローズアップが進んだというが実際じゃない...

地域医療崩壊の記事はずいぶん前からありました。
そして、新型コロナ以降よりのルールや負担の増大も含めてクローズアップが進んだというが実際じゃないでしょうか?
隣に、希望と期待とパワハラについての記事もありますが、何が現実で、何が期待されうる未来の現実で、何がその先の妄想じみた期待なのか?
科学的な問題だけでなく、個人や組織の理解と感情の問題が大きな政治的課題を生み出します。
国家の最先端は、国家間競争も含めて伸ばさねばなりませんが、きんてん化された標準医療が現実の最先端であり、そこに届かない施設や地域も多々あります。
そういう地域を直接あるいはITで統合して再編成したいものの、人間的な問題や政治的な課題が障壁になっています。
CTやMRIの台数が多くても、運用システムが不十分であれば、効率的には運用できないですよね。
そこには採算や訴訟がらみの政治の問題も絡みます。

発熱外来の煩雑さをぼやく記事を某所で見かけましたが、日本の保険診療が複雑な患者まで想定して処理するように向いてないだけで、本当は発熱の原因はあまたあって、短時間で存在を否定しないといけない疾患だけでも多数あります。
けれども、とりあえず解熱剤と広域抗生剤出しておけば、大半は一過性に治まるので、そういう風な診療が全国平等にばらまかれた経緯があります。
医療崩壊する医療さえない地域では、そういう医療でもあった方がいいわけですが、ITと医療機器の進歩によって、医療技術の差異が可視化された時、問題が発生したわけです。
医療とは科学か政治か宗教か、本当に難しいわけです。
新型コロナを巡ってPCRその他検査や外出規制など何度も意見調整がありますが、これからも朝令暮改でいいと思います。
それだけ、もともとあった可視化された要因や潜在的要因にコロナが加えた一撃は大きかった。
それだけのことではないかと思います。

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事