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アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直

医療・健康・介護のコラム

【最終回】成人式では大人気 晴れ着の同級生から飲み会に誘われ…きっと夢はかなうよ

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 その日は曇り空だった。紺のジャケットに青いネクタイをした洋介を真ん中にし、玄関先で写真を撮った。家族写真というのはいつ以来だろうか。こうしたことを嫌がる年頃の次男も、まもなく要らなくなる高校の制服を着て加わった。1993年、信州の天竜川に近い病院で洋介が生れてから20年がたち、成人式の日が来たのだ。

イラスト:森谷満美子

イラスト:森谷満美子

居酒屋、洋ちゃんも来ませんか?

 会場となる体育館に行くと、すでに晴れ着とスーツ姿であふれていた。同窓の若者たちが、それぞれに集まり、話が盛り上がっていたが、洋介は中学から隣村(当時)の特別支援学校に進んだから、クラスメートはいなかった。それでも、僕ら家族にとっては特別な日であり、通過点ながら、何か「達成」のような感覚もあった。

 そんなとき、一人の晴れ着の子が声をかけてきた。「洋ちゃん! ですよね」。 それは、洋介の幼なじみで、最初の幼稚園で洋介がつらい仕打ちを受けていると「告発」してくれた女の子だった

 見違えるようなお嬢さんに成長していたその子に呼ばれ、小学校で同学年だった女の子たちも集まってきた。昔の友だちはみな、すっかり大人の女性に変わっていたが、洋介は面影をおぼえているようで、緊張することもなく、うれしそうな顔をしていた。

 それを控えめに遠くから見ていた男の子は、一団が去ってから、「一緒に写真を撮ろうよ」と言ってきた。「今日、居酒屋でお祝いの会を開くんだけど、洋ちゃんも来ませんか?」と誘ってくれた(親同伴の会になっては興ざめかと思い、辞退したが)。

20年の重み、にわかに実感

 なかなか生まれず、医師から「胎児の突然死もありうる」と言われ、生まれてからもしばらく保育器から出られなかった20年前、洋介が自閉症だと告げられた17年前……。この日が来ることを想像すらできなかった。いや、成人式の前日まで、その実感はなかった。

 だが、会場で仲間に囲まれている洋介を見ていると、彼が生きてきた20年の重みが、いつの間にか僕ら夫婦の上に降り積もっているのを感じた。曇り空から舞い落ちる雪のように。

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梅崎正直(うめざき・まさなお)

ヨミドクター編集長
 1966年、北九州市生まれ。90年入社。その年、信州大学病院で始まった生体肝移植手術の取材を担当。95年、週刊読売編集部に移り、13年にわたって雑誌編集に携わった。社会保障部、生活教育部(大阪本社)などを経て、2017年からヨミドクター。

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4件 のコメント

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ありがとうございました

ふみ

今日までこのコラムの存在を知らず、今、一気に読み終えたところです。我が子も最重度知的障害で自閉症。20歳代でパワーが有り余る毎日に、親の体力の方...

今日までこのコラムの存在を知らず、今、一気に読み終えたところです。我が子も最重度知的障害で自閉症。20歳代でパワーが有り余る毎日に、親の体力の方が落ちてきて、パニックへの対応にもひと苦労させられています。ネガティブになる時もありますが、そんな時は我が子がいなかったら自分はどんな人生だったか、そんな想いを馳せて現実逃避をしていますが、結局はこの子がいるから今の環境や自分がいるのだと感謝の気持ちに至ります。親亡き後を考えて、終(つい)の住処(すみか)問題に取り組んでいますが、障害支援区分の区分6を受け入れてくれるグループホームも少なく、入所施設も空きがない状態で難航していますが、子どもが幸せそうに過ごす姿を見て安心して旅立ちたい。そのために自分がまだ動けるうちにどうにかしないといけない、と思っています。最後に、コラムを読むうちに、もしかして…と思っていましたが、やはり洋介くんは我が子にとっては支援学校の先輩です。こんなところでもご縁があることをとてもうれしく思います。新型コロナウイルス感染はまだ落ち着かず、変動の時代でつらくもありますが、心身共にお元気でお過ごし下さい。連載ありがとうございました。

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楽しく読ませていただきました

ハルハル

1年間のコラム、お疲れさまでした。とても勉強になるし、読んでいて楽しかったです。ちょうど半年前、わが子は自閉症と診断され、まだ本当に自閉症なのか...

1年間のコラム、お疲れさまでした。とても勉強になるし、読んでいて楽しかったです。ちょうど半年前、わが子は自閉症と診断され、まだ本当に自閉症なのか?と自閉症の特徴をネットで調べ、うちの子はこれはやらないから、もしかして違うのでは? と受け入れられずにいます。でも、梅崎さんのコラムにあった「とりあえず普通の子の発達ではない」に大きくうなずいてしまいました。これから行く道を示してくださったようなコラム、ありがとうございます。彼らが作る社会もあるのだ、そう気づかせてくださいました。そして、少し安心しました、親が先に死んでもいいのだ……と。緊張の糸がいつもピンと張り……つらくて泣いてしまう日々。コラムを読んで、梅崎さんのような、時間がたつとクスッと笑える体験談になる日がくるのかな、と心を強く保ちたいと思いました。

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きょうだい発達障害

マリコ

読売新聞を購読しているにもかかわらず、インターネットでこのコラムを初めて読み、読み入ってしまいました。私の57歳の兄は発達障害です。父は亡くなり...

読売新聞を購読しているにもかかわらず、インターネットでこのコラムを初めて読み、読み入ってしまいました。私の57歳の兄は発達障害です。父は亡くなり、母は認知症となり施設へ。実家は東京、私は結婚をして大阪在住。予期せぬ事が常に起こっています。このコラムに元気をもらいました。読んでいて楽しかったです。同じ気持ちになり、涙が浮かぶことも…。通勤電車の中で涙目になりながら読みました。ありがとうございました。

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